相続したアパートの家賃は誰のものか|遺産分割を待たずに決まっています

結論からお伝えすると、相続が始まってから遺産分割が終わるまでの間に入った家賃は、遺産ではありません。法定相続分に応じて、その時点で各相続人のものになっています。あとから「アパートは長男が取得する」と決まっても、それまでの家賃がさかのぼって長男のものになるわけではありません。

ここを知らないまま「分割が決まるまで、家賃はいったん代表者の口座で預かっておこう」と進めると、話がまとまったあとに家賃の精算でもめます。相続したアパートで最初につまずくのは、たいてい建物ではなくお金の流れです。

家賃は「遺産分割の対象ではない」と裁判所が書いています

裁判所が公開している「遺産分割手続Q&A」には、問題になりやすい財産の扱いが並んでいます。賃料収入の項目はこうです。

相続開始後,遺産分割までの間の賃料収入(「果実」といいます。)は,法定相続分で相続人に帰属するという判例があり,原則として遺産分割の対象ではありません。(裁判所「遺産分割手続Q&A」)

同じQ&Aは、預貯金も「相続開始と同時に、法定相続分に応じて相続人に帰属する」(当然分割)と説明し、債務も「相続開始と同時に法定相続分の割合に応じて相続人が負担する」としています。さらに、固定資産税や家屋の修理費などの遺産管理費用も、原則として遺産分割の対象ではないと書かれています。

つまり、相続が始まった瞬間から、そのアパートの収入も支出も、法定相続分の割合で分かれているということです。分割協議は、建物と土地という「もの」を誰が取るかを決める手続きであって、それまでの家賃の行き先を決める手続きではありません。

ではどうすればもめないのか

やることは単純です。相続が始まった日を境に、家賃と経費を1本の表で記録し続けること。これだけで、後の精算が計算に変わります。

  • 相続開始日を記録の起点にする(相続開始日の分は日割りで分ける)
  • 月ごとに入金額・管理手数料・修繕費・固定資産税・保険料・借入返済を並べる
  • 合計に法定相続分を掛けた金額を、相続人ごとに出しておく
  • 代表者の口座で受けている場合は、その口座を生活費と混ぜない

相続人全員が合意すれば、この家賃も含めて遺産分割の話し合いの中で解決することはできます。裁判所のQ&Aにも「相続人全員の合意を条件に、調停で話し合うことができます」とあります。合意があればまとめて片づけられる。合意がなければ法定相続分に戻る、と覚えておけば足ります。

相続開始後の家賃や費用の扱いを並べた図。家賃も預貯金も債務も相続開始と同時に法定相続分で分かれ、固定資産税や修繕費も遺産分割の対象にならない。全員の合意があれば調停で扱える。

共有のまま貸し続けるときに効いてくる決まり

相続人が数人いるとき、遺産は共有になります(民法898条1項)。共有のまま賃貸を続ける場合、次の条文が実務に直接効いてきます。

  • 民法252条1項:共有物の管理に関する事項は、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。管理会社を替える、募集条件を変えるといった判断はここに入ります
  • 民法249条2項:共有物を使用する共有者は、別段の合意がある場合を除き、他の共有者に対し、自己の持分を超える使用の対価を償還する義務を負う。相続人の1人がその建物に住んでいる場合、これが問題になります
  • 民法253条1項:各共有者は、その持分に応じて管理の費用を支払う。修繕費や固定資産税は持分どおりです

新しく貸し出すときは「過半数」で進めないでください

民法252条4項は、共有者が過半数の決定で設定できる賃借権の期間を定めており、建物の賃借権等は3年とされています。ただし、居住用の普通借家契約には借地借家法が適用され、期間を3年と定めても更新が前提になります。約定した期間で確実に終わるとは限らないため、この短期の枠には収まらないという整理が一般的です

実務では、共有のまま新規に入居者を入れる場面は珍しくありません。持分の過半数だけで進めず、弁護士か司法書士に確認してください。既に入居者がいる契約を引き継ぐ場合と、新しく貸し出す場合とでは、話がまったく違います。

分け方は4つ|裁判所が共有分割に付けている注意書き

裁判所のQ&Aは、不動産の分け方を4つ挙げています。

  1. 現物分割:個々の不動産を個々の相続人が別々に取得する
  2. 代償分割:1人または数人が不動産を取得し、他の相続人にお金(代償金)を支払う
  3. 共有分割:複数の相続人が共有で取得する
  4. 換価分割:第三者に売却して代金を分ける

注目したいのは、共有分割に裁判所自身が付けている一文です。

共有分割は,将来,共有者間で管理・処分方法などの意見が食い違ったときに,問題が生じる可能性はあります。(裁判所「遺産分割手続Q&A」)

賃貸中のアパートは、共有にした瞬間に判断の場面が毎年やってきます。空室が出れば募集条件を決め、給湯器が壊れれば交換するかを決め、屋根を直すかどうかを決めます。共有分割は「決めない」ではなく「これから毎回全員で決める」という選択だと理解しておいたほうがいいです。

相続後に来る期限を順に並べた図。取得を知った日から3年で相続登記、昔の相続は令和9年3月31日が期限、まとまらなければ相続人申告登記、申告登記は申し出た本人だけ有効、分割成立からさらに3年、相続開始から10年で特別受益と寄与分の主張ができなくなる。

期限は1つではありません

相続登記は3年以内。過料は10万円以下

不動産登記法76条の2第1項により、相続で所有権を取得した人は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、その所有権を取得したことを知った日から3年以内に登記を申請しなければなりません。正当な理由なく怠ると、10万円以下の過料の対象です(同法164条1項)。制度は令和6年4月1日から始まりました。

見落とされやすいのが、それより前に開始した相続にも適用される点です。法務省のQ&Aは「令和6年4月1日より前に相続したことを知った不動産で、相続登記がされていないものについては、令和9年3月31日までに相続登記をする必要があります」と書いています。何十年も前に亡くなった祖父名義のままの土地があれば、それも対象です。

遺産分割が決まったら、そこからもう一度3年

法定相続分で先に登記をしたあとに遺産分割が成立した場合、その分割の日から3年以内に、結果に基づく登記を申請する義務があります(同法76条の2第2項)。一度登記したら終わり、ではありません。

相続人申告登記は「申し出た人だけ」

すぐに分割がまとまらないときのために、相続人申告登記という簡易な仕組みがあります(同法76条の3)。登記官に「この人について相続が開始した」「自分はその相続人だ」と申し出るもので、期間内に申し出れば申請義務を履行したものとみなされます。

ただし法務省のQ&Aは、その効果を「申出をした相続人についてのみ、相続登記の義務を履行したものとみなされます」としています。兄が申し出ても、弟の義務は残ります。「代表者が手続きしておいたから大丈夫」と思い込むと、全員に過料の可能性が残ります。

10年を過ぎると、主張できなくなるものがある

民法904条の3は、相続開始の時から10年を経過した後にする遺産の分割については、特別受益と寄与分の規定を適用しないと定めています(家庭裁判所に分割を請求していた場合などの例外あり)。「兄は生前に住宅資金をもらっている」「自分は親の介護をした」という主張は、10年で使えなくなるということです。

裁判所のQ&Aも、特別受益と寄与分は「当然に行われるものではなくて、その事実を証拠によって証明しなければなりません」としています。時間が経つほど、証拠は集まりにくくなります。

もめないための順番

  1. 相続開始日から、家賃と経費の記録を1本の表にする。誰が受け取っているかにかかわらず、法定相続分での取り分を毎月計算しておく
  2. 入金口座と管理会社への連絡を、最初に整理する。旧名義の口座が凍結されると、家賃の入金先が止まります
  3. 3年の登記期限を、相続開始日から数えてカレンダーに入れる。まとまりそうになければ相続人申告登記を、全員それぞれが行う
  4. 共有のまま持ち続けるかどうかを、10年を待たずに決める。共有分割は判断を先送りする方法ではありません

相続直後に何から手をつけるかは親のアパートを相続した。まず何から手をつけるかに、入金口座の切り替え手順は家賃はどこに入るのか|入金口座の変更手続きに、入居者との契約がどうなるかは入居者との契約はどうなる?相続後の契約の扱いにまとめてあります。築年数の古いアパートを相続した場合の立て直しの進め方は相続した築古アパートを短期間で立て直す進め方をご覧ください。

なお、遺産分割そのものの進め方や、相続税の扱いは事情によって大きく変わります。一般的にはここに書いた枠組みで動きますが、実際の手続きは弁護士・司法書士・税理士に確認してください。家賃の記録だけは、相談する前から始められます。

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