賃貸経営の「収入」と「所得」は同じではない|敷金は収入に入りません

結論からお伝えすると、「収入」は入ってきた総額、「所得」はそこから必要経費を引いた残りです。所得税法第26条第2項が「不動産所得の金額は、その年中の不動産所得に係る総収入金額から必要経費を控除した金額とする」と定めています。税額も、国民健康保険料も、扶養の判定も、動くのは「所得」のほうです。そして敷金は、そのどちらにも入りません。

通帳の入金欄を電卓で足していく。8万円が6行、7万5,000円が2行、更新料が2件、そこに敷金2件と、退去精算で戻ってきた振込が1件。合計は出た。ところが確定申告書には「収入金額」と「所得金額」の欄が別に並んでいて、どちらにこの数字を書くのか分からない。足し方を間違えているのではなく、足してはいけないものが混ざっている——最初につまずくのはここです。

収入と所得の違いを示した図。家賃・共益費は収入に入り、敷金は収入に入らず、必要経費を引いた残りが所得で、借入金の元本返済は経費にならないという5点を並べた図解。

大家が扱う数字は3つある

混ざりやすいので、先に分けます。

  1. 総収入金額……その年に受け取るべき家賃などの合計
  2. 所得……総収入金額 − 必要経費。税金の計算に使う数字
  3. 手残り……実際に口座に残った現金。所得とは一致しません

国税庁のタックスアンサー No.1370「不動産収入を受け取ったとき(不動産所得)」(令和7年4月1日現在法令等)は、総収入金額に入るものとして賃貸料収入のほかに次を挙げています。

  • 名義書換料、承諾料、更新料または頭金などの名目で受領するもの
  • 敷金や保証金などのうち、返還を要しないもの
  • 共益費などの名目で受け取る電気代、水道代や掃除代など

3つ目に気づいてください。共益費も収入です。「実費だから預かっているだけ」という感覚で帳簿から落とすと、収入の計上漏れになります。共益費の性質そのものは アパートの共益費は何に使うお金か|大家が上げられるのは実費が動いたときだけ に整理しました。

必要経費として同じページが挙げているのは固定資産税・損害保険料・減価償却費・修繕費で、条件は「不動産収入を得るために直接必要な費用のうち家事上の経費と明確に区分できるもの」です。自宅と兼用のものは、この区分ができるかどうかが分かれ目になります。経費にできるものの範囲は 賃貸経営で経費にできるもの・できないもの に、覚えておく数字の考え方は 賃貸経営で最初に覚える3つの数字 に書いています。

敷金は収入に入れるのか?

入れません。国税庁のタックスアンサー No.1376「不動産所得の収入計上時期」(令和7年4月1日現在法令等)は、こう書いています。

「敷金や保証金は本来は預り金ですから、受け取っても収入にはなりませんが、返還を要しないものは、返還を要しないことが確定した日にその金額を収入に計上する必要があります。」

つまり敷金は、預かった年ではなく「返さないことが決まった年」の収入です。退去精算で原状回復費に充てて相殺した分は、その精算の年に収入として立ちます。敷引き・定額控除のように最初から返さない約束になっているものは、その確定した日です。預かったまま返す前提のものを収入に足すと、税金を前払いすることになります。

礼金・権利金は別扱いで、貸し付ける資産の引渡しを必要とするものは引渡しのあった日の収入です。名義書換料・承諾料・頭金も同じ扱いだと同ページに書かれています。敷金そのものを誰が預かり誰が返すのかは 敷金は誰が預かっているのか|返す義務を負うのは、預かった人ではありません にまとめています。

所得と手残りがずれる2つの理由

帳簿は黒字なのに現金が残らない、あるいはその逆が起きます。原因はほぼこの2つです。

① 借入金の元本返済は、経費になりません。必要経費になるのは利息の部分です。毎月10万円返していて、そのうち利息が2万円なら、経費は2万円。残る8万円は口座から出ていくのに所得は減りません。

② 減価償却費は、現金が出ないのに経費になります。建物の取得価額を年数で割って経費に落とす仕組みなので、支出のない年でも経費が立ちます。考え方は 減価償却の考え方を、ざっくり掴む にまとめました。

数字にすると、たとえばこういう形になります(説明のための計算例です)。

項目 金額
家賃収入(月8万円×6室×12か月) 576万円
更新料・共益費など +24万円
総収入金額 600万円
固定資産税・保険料・修繕費・管理料 △150万円
借入金の利息 △24万円
減価償却費 △120万円
不動産所得 306万円
(参考)借入金の元本返済 ※経費にならない △96万円
手残りの現金 330万円

所得は306万円、手元に残るのは330万円。減価償却の120万円が現金では出ていかず、元本の96万円が経費にならないため、両者は一致しません。物件を買った直後は所得のほうが小さく、返済が進んで償却が終わるころには逆転します。「所得が減ったから儲かっていない」も「黒字だから現金がある」も、どちらも成り立ちません。

不動産所得の赤字を給与と損益通算できる部分とできない部分を左右で比べた図。できるのは建物の減価償却や修繕費、建物の分の借入利息。できないのは土地の分の借入利息と、租税特別措置法41条の4で除かれる分、別荘等の貸付けの赤字、国外中古建物の簡便法による償却分。

赤字なら給与と相殺できるのか?

できる場合もありますが、全額はできません。所得税法第69条第1項が損益通算を定めていますが、国税庁のタックスアンサー No.1391「不動産所得が赤字のときの他の所得との通算」(令和7年4月1日現在法令等)は、損益通算の対象にならない損失を2つ挙げています。

  1. 別荘等のように主として趣味、娯楽、保養または鑑賞の目的で所有する不動産の貸付けに係るもの
  2. 不動産所得の金額の計算上必要経費に算入した土地等を取得するために要した負債の利子に相当する部分の金額

2番目が本命です。根拠は租税特別措置法第41条の4で、条文は「当該損失の金額のうち当該負債の利子の額に相当する部分の金額として政令で定めるところにより計算した金額は、所得税法第六十九条第一項の規定その他の所得税に関する法令の規定の適用については、生じなかつたものとみなす」。平成4年分以後の話です。

つまり「土地の分の利息」は、赤字の中から取り出されて、なかったものとして扱われます。建物と土地をまとめて買っている場合、土地の分の借入額をどう計算するかは同条第2項で政令に委ねられており、按分の考え方が決まっています。「不動産所得が赤字だから給与所得と全部ぶつけられる」という前提で資金計画を立てていると、ここでずれます。

もう一つ、国外の中古建物には別の制限があります。同ページは令和3年以後の各年について、耐用年数を「簡便法」により計算した国外中古建物の減価償却費に相当する部分の損失は生じなかったものとみなされると書いています。国内の物件との内部通算もできません。

「事業として」行っていると何が変わるか

不動産所得はさらに、その貸付けが事業として行われているかどうかで扱いが変わります。国税庁のタックスアンサー No.1373 は、原則として社会通念上事業と称する程度の規模かで実質判断するとしつつ、建物の貸付けについては次のいずれかに当てはまれば原則として事業として取り扱うとしています。

  • 貸間、アパート等については、貸与することのできる独立した室数がおおむね10室以上
  • 独立家屋の貸付けについては、おおむね5棟以上

違いは4つ挙げられています。①取壊し・除却などの資産損失は、事業なら全額が必要経費、それ以外は資産損失を引く前の不動産所得の金額が限度 ②家賃の回収不能は、事業なら回収不能となった年の必要経費、それ以外は収入に計上した年までさかのぼって計算をやり直す専従者給与・専従者控除は事業でなければ使えない ④青色申告特別控除は、事業なら要件を満たして最高55万円、電子帳簿保存またはe-Taxなら65万円、それ以外は最高10万円(租税特別措置法第25条の2)。

青色申告そのものの効果は 青色申告にすると何が変わるか に書きました。なお共有名義の物件で室数を持分で按分するのかは、根拠になる通達に書かれていません。判断が分かれる論点なので、税理士か税務署に確認してください。共有名義そのものの論点は アパートを夫婦の共有名義にすると何が起きるか|2分の1ずつでは過半数になりません にまとめています。

収入に入れる年は「入金された年」ではない

最後にもう一つ。No.1376 は、地代・家賃・共益費の収入計上時期を「契約や慣習などにより支払日が定められている場合は、その定められた支払日」としています。支払日が定められていなければ実際に支払を受けた日、請求があったときに支払うべきものなら請求の日です。

12月分の家賃が管理会社から翌年1月に送金されても、契約上の支払日が12月なら12月の収入になります。通帳の入金を12回数えるだけでは、年末年始でずれます。この点は 大家が使う帳簿は何か|白色申告でも記帳と7年保存は義務です家賃はいつ大家の口座に入るのか|支払期日と送金日は別の日です に、送金の側から見た形で書いています。固定資産税がいつ・いくら来るかは 固定資産税はいつ・いくら来るか が参考になります。

収入と所得の違いは、言葉の問題ではありません。敷金を足すか足さないか、元本を引くか引かないか、土地の利息をどう扱うか——ここで数字が数十万円動きます。そして動いた「所得」は、そのまま国民健康保険料や扶養の判定にも効いてきます。通帳の合計から始めるのではなく、預り金を外すところから始める。順番を変えるだけで、間違いはかなり減ります。

税務の当てはめは物件の持ち方や契約の内容で変わります。この記事は一般的な考え方の整理ですので、実際の申告や損益通算の可否は税理士または所轄の税務署にご確認ください。

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