入居者の車が駐車場に残されたら|持ち主は車検証の所有者欄で決まり、軽自動車は大家から照会できません

退去の立ち会いから3週間。駐車場の4番の区画に、白い軽自動車が残っています。フロントガラスの内側には当時の駐車許可証、ワイパーには雨で波打ったチラシが2枚。電話は呼び出し音のまま、手紙は戻ってきません。次の入居者は「駐車場つき」で申し込んでいます。

結論からお伝えすると、最初にやるのは「動かす方法」を探すことではなく、その車が誰の物かを確かめることです。駐車場の契約書に入居者の名前が書いてあっても、法律上の持ち主が入居者とは限りません。ローンで買った車なら、車検証の「所有者」欄は販売店や信販会社であることが一般的です。そしてもう1つ、軽自動車は、大家の側から持ち主を照会する仕組みがありません。普通車と軽自動車で、使える手続きがまるで違います。

入居者の車が残ったときに見る4つ:車検証の所有者欄、写しに所有者が写っているか、現場の記録、自分で動かさないこと

駐車場の契約者と、車の「所有者」は別の欄です

車検証には「所有者」と「使用者」の2つの欄があります。毎日乗っているのは使用者で、入居者は多くの場合こちらです。ローンを払い終えるまで所有者を販売店や信販会社にしておく形は、一般に「所有権留保」と呼ばれています。

この違いが効いてくるのは、道路運送車両法5条1項があるからです。

登録を受けた自動車の所有権の得喪は、登録を受けなければ、第三者に対抗することができない。

普通車の持ち主は、国の自動車登録ファイルに誰が載っているかで決まります。入居者が「もう自分の物だ」と思っていても、登録上の所有者が信販会社のままなら、大家さんの前に立つ持ち主は信販会社です。

2023年1月以降の車検証は、紙を見ても所有者が分かりません

駐車場の契約のときに車検証の写しをもらっている大家さんは多いと思います。ただし2023年1月から車検証はICタグ付きのカードに変わり、国土交通省の説明では「券面には、有効期間、使用者住所や所有者情報が記載されず」となっています(出典:国土交通省「国土交通白書2023」コラム 電子車検証)。所有者の情報はICタグの中にあり、読むには国の「車検証閲覧アプリ」が要ります。

つまり、2023年以降に車を替えた入居者の写しは、所有者欄そのものが写っていないことがあります。手元の写しで判断できるかを、先に確かめてください。

普通車は、ナンバーだけで証明書を請求できる場面があります

普通車(登録自動車)の登録内容は、道路運送車両法22条1項で「何人も」請求できる書類、登録事項等証明書で確かめられます。条文の考え方はアパートの駐車場に無断駐車があったときで整理しています。

ここで引っかかるのが、請求に書く番号です。自動車登録規則26条1項2号は、原則として「自動車登録番号及び車台番号」の両方を求めています。車台番号は車検証か車体を見ないと分かりません。

ただし同じ号には「登録事項等証明書を交付することについて特別の理由がある場合」の扱いがあり、関東運輸局の案内は次のように書いています。

私有地における放置車両の所有者、使用者を確認する場合は自動車登録番号のみで照会できますが、別途「車両が放置されている場所」「見取り図」「放置期間」「放置車両の写真」が必要となります。

請求先はナンバーの地域名に関係なく最寄りの運輸支局または自動車検査登録事務所で、手数料は現在登録事項等証明書が1件400円です(出典:関東運輸局「登録事項等証明書交付請求」、2026年10月30日に確認)。請求書には何のために必要かを具体的に書き、窓口で本人確認があります。

軽自動車は、なぜ大家から照会できないのですか?

軽自動車は、そもそも登録の対象ではありません。道路運送車両法4条は登録を受けなければ走れない自動車から「軽自動車、小型特殊自動車及び二輪の小型自動車を除く」としています。軽自動車の記録は軽自動車検査ファイルにあり、その証明書について72条の3はこう書いています。

検査対象軽自動車又は二輪の小型自動車の所有者は、国土交通大臣に対し、第七十二条第一項に規定する軽自動車検査ファイル又は二輪自動車検査ファイルに記録されている事項を証明した書面の交付を請求することができる。

主語が「何人も」ではなく「所有者」です。北海道運輸局の資料は理由を、登録には所有権の第三者対抗要件という効果があるので広く公開するが、軽自動車には「こうした所有権の公証制度はないため、自動車のファイルを一般に公開することとはされていない」と説明しています(出典:北海道運輸局「検査記録事項等証明書交付の請求者が、所有者に限られる理由」)。

放置車両の例外も、軽自動車には書かれていません。持ち主が分からない軽自動車を調べる道は、一般的には弁護士に依頼し、弁護士法23条の2の照会(弁護士会を通じて団体に報告を求める手続き)を使う形になります。

入居者が「処分していい」と言えば、片づけられますか?

所有者が入居者本人なら、書面で放棄や処分の同意をもらう道があります。ただし所有者欄が信販会社なら、入居者の同意だけでは足りません。持ち主ではない人が、他人の物の処分を許すことはできないからです。

廃車の手続きを見ても同じです。普通車の永久抹消登録(15条)も一時抹消登録(16条)も、申請するのは「登録自動車の所有者」です。軽自動車の解体の届出(69条の2)も「所有者」の義務として書かれています。大家さんが車を手元に置いていても、名義を消す手続きには手が届きません。

そのうえで、自分の判断でレッカーを呼ぶ・業者に引き取らせると、刑法235条(窃盗)や261条(器物損壊等)の問題になり得ます。放置が長引いても、ここは変わりません。立ち退きの場面で同じ線を整理したのが「立ち退いてほしい」と思った大家が踏んではいけない4本の線です。

普通車と軽自動車の比較:普通車は誰でも登録事項等証明書を請求でき私有地の放置ならナンバーだけで可。軽自動車は所有者しか請求できず弁護士を通じた照会を使う

大家が手をつける順番

  1. 記録を残す。ナンバー・車全体・区画番号が入る写真を日付つきで。見取り図と「いつから置かれているか」も書き留める(普通車の請求にそのまま使います)
  2. 契約書と車検証の写しを開く。駐車場が別契約か家賃込みか、所有者欄が入居者か会社か、欄が写っていないかを確かめる
  3. 入居者と連帯保証人・緊急連絡先へ書面で連絡する。引き取りの期限と、引き取らない場合の扱いを書く(連絡がつかないときの順番は連絡が取れない入居者への対応)
  4. 普通車なら登録事項等証明書を取る。所有者が信販会社なら、その会社に状況を伝える
  5. 軽自動車や、誰も応じない場合は弁護士へ。照会と、裁判所の手続きで動かす道を検討する

駐車場を家賃と別の契約にしている場合は、部屋の契約が終わっても駐車場の契約が残っていることがあります。先に契約の終わり方を確かめてください(駐車場代を家賃に含めるか別契約にするか)。入居者が亡くなっている場合は、車も相続財産になり、話が変わります(入居者が亡くなったと連絡が来たら)。

都合の悪いことも書いておきます

  • 時間がかかります。所有者が分かっても、引き取りに応じるかは相手次第です。裁判所の手続きまで進めば、数か月単位になることがあります
  • 費用が戻らないことがあります。弁護士費用やレッカー代を誰に請求できるかは事情によります。回収の見込みと手間を比べる判断が要ります
  • 運用は窓口で違うことがあります。放置車両の例外で求められる書類の形は、管轄の運輸支局に事前に確かめてください
  • 確かめられていないこと。信販会社が実際にどこまで引き揚げに応じるか、軽自動車検査協会が所有者以外の請求をどう扱っているかの窓口の運用は、条文と運輸局の案内からは分かりませんでした

まとめ

入居者の車が残ったとき、大家さんが最初に手にする答えは「動かしてよいか」ではなく「誰の車か」です。普通車ならナンバーと現場の資料で所有者までたどれます。軽自動車は大家の側からは照会できないので、早めに弁護士の手続きに乗せるほうが時間を失いません。

今日できることは1つです。駐車場の契約書の綴りを開いて、区画ごとに車検証の写しの所有者欄が「入居者本人」「会社名」「写っていない」のどれかを数えてください。会社名と空欄の区画が、次に同じことが起きたときに時間がかかる区画です。法的な判断が要る場面は、弁護士など専門家に確認してください。

投稿者プロフィール

Follow me!

この記事の内容について、個別に相談したい方へ

さいたま市周辺で賃貸管理をお探しの方、いまの管理に迷いがある方のご相談をお受けしています。 まだ何も決めていない段階でもかまいません。

相談する(お問い合わせフォーム)