入居者が犬猫を10頭以上飼っていたら|大家が動かせる届出と勧告の順番

「隣の部屋から、猫の声が一日中している」。最初の連絡はこの一行でした。翌週、別の部屋からも同じ内容が入りました。ベランダの物干しに毛が付く、共用廊下に臭いが出ている、と。大家が現地で確かめられたのは、玄関前に積まれたキャットフードの空袋が10袋以上あったことだけでした。何頭いるのかは、外からは分かりません。

結論からお伝えすると、多頭飼育で最初に確かめるのは頭数ではなく、「10頭以上かどうか」です。さいたま市内では、生後90日を超える犬及び猫を個別または合計で10頭以上飼育することになったら、市への届出が義務づけられており、届出をしなかった者と虚偽の届出をした者は3万円以下の過料に処せられます。つまり10頭を超えていれば、行政がすでに把握しているか、把握していないなら条例違反がそこに1つ立っている状態です。

多頭飼育で大家が見る6点。10頭以上かどうか、届出の義務は入居者にあること、届出をしないと3万円以下の過料、苦情は複数から要ること、記録するのは共用部、室内には入らないことを示した図

届出の義務は入居者にあり、大家にはありません

根拠は動物の愛護及び管理に関する法律第9条です。

地方公共団体は、動物の健康及び安全を保持するとともに、動物が人に迷惑を及ぼすことのないようにするため、条例で定めるところにより、動物の飼養及び保管について動物の所有者又は占有者に対する指導をすること、多数の動物の飼養及び保管に係る届出をさせることその他の必要な措置を講ずることができる。(動物愛護法第9条)

この条文を受けて、埼玉県は条例で平成26年10月1日から、県内(さいたま市を除く)で犬猫を合計10頭以上飼う人に知事への届出を義務づけました。さいたま市はさいたま市の条例で、市内の飼育者に市への届出を求めています。県内でも、さいたま市とそれ以外で届出先が違います。

名宛人は「飼っている人」です。大家が代わりに届け出る制度はありません。大家にできるのは、届出の対象になっている可能性を行政に伝えることと、後述の第25条を動かしてもらうことです。

大家が自分で頭数を確認しにいってよいのか

よくありません。賃貸借契約に立入りの条項があっても、それは点検や修繕など目的が限られた入室であって、飼育状況の調査は通常その目的に入りません。合鍵で入れば住居侵入になり得ます。窓から中を撮ることも避けてください。

大家が集めるべきなのは室内の情報ではなく、共用部と他の部屋で起きている事実です。廊下の臭い、階段に落ちている毛、鳴き声が続いた時間帯、ベランダの状況。日付と時刻を入れて記録します。これが次の節の要件に直結します。

行政が動く要件は「複数の入居者の苦情」です

周辺の生活環境が損なわれている場合、動物愛護法第25条は都道府県知事に3段の権限を与えています。第1項が指導または助言、第2項が期限を定めた勧告、第3項が勧告に従わないときの命令です。ただし第1項には「環境省令で定める事態」という条件が付いていて、その中身が動物愛護法施行規則第12条です。

……周辺地域の住民……の日常生活に著しい支障を及ぼしていると認められる事態であって、かつ、当該支障が、複数の周辺住民からの都道府県知事に対する苦情の申出等により、周辺住民の間で共通の認識となっていると認められる事態……(動物愛護法施行規則第12条)

ここが実務でいちばん取り違えられます。1部屋からの苦情では、条文の要件を満たしません。「複数の周辺住民からの苦情の申出等」が必要だと、省令が書いています。大家が「1件だけ来ているので様子を見よう」と止めていると、要件がいつまでも揃いません。

規則第12条が挙げている事態は4つです。飼育や給餌に伴って頻繁に発生する鳴き声その他の音、飼料の残さやふん尿の不適切な処理または放置により発生する臭気、飼養施設の敷地外に飛散する毛または羽毛、そして多数のねずみ・はえ・蚊・のみその他の衛生動物の発生です。4つとも、部屋の中ではなく外に出た状態を指しています。だから共用部の記録が効きます。

もう一段上に、虐待のおそれの規定があります

第25条第4項は、飼養または保管が適正でないことに起因して動物が衰弱する等の虐待を受けるおそれがある事態について、改善措置の命令または勧告を定めています。その「事態」は施行規則第12条の2にあり、6つ並んでいます。栄養不良の個体が見られること、爪が異常に伸びている・体表が著しく汚れている個体が見られること、そして繁殖を制限する措置が講じられず、譲渡し等による頭数の削減も行われていない状況で、繁殖により頭数が増加していること。これが、いわゆる多頭飼育崩壊の状態を条文の言葉にしたものです。

この第4項には、第1項のような「複数の苦情」の要件がありません。代わりに、指導に従わないか、職員による状況把握を拒んでいて改善が見込まれないことが条件です。そして第5項で、知事は報告を求め、職員に立入検査をさせることができます。

刑罰の側も見ておきます。第44条第2項は、飼養密度が著しく適正を欠いた状態で飼養または保管することにより衰弱させることなどを虐待として、1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金を定めています。数が多いこと自体は罰則ではありませんが、その結果として衰弱させれば罰則の側に入ります。

動物の愛護及び管理に関する法律第25条で行政が動く順番。指導か助言、期限を定めた勧告、従わなければ命令、報告の求めと立入検査の4段を示した図

連絡する順番

順番を変えないことが結果を変えます。

  1. 共用部の事実を記録する(日付・時刻・場所・写真)。室内には入らない
  2. 他の入居者に、行政の窓口へ直接申し出てもらう。大家がまとめて代弁するより、複数から入るほうが規則第12条の要件に近づきます
  3. 10頭以上の可能性を、届出の窓口に伝える。さいたま市なら動物愛護ふれあいセンター、それ以外の県内は県の保健所です
  4. 契約違反の手続は、行政とは別に進める。ペット禁止の物件での無断飼育の段取りは無断でペットを飼われていたらに書いています

3と4は同時に走らせて構いません。行政の指導は飼育の状態を直すもので、契約の解除や明渡しは大家が別に組むものです。行政が動いたからといって、契約の問題が解決するわけではありません。

都合の悪いことも書いておきます

第25条の勧告も命令も、出るまでに時間がかかります。指導から始まり、改善しなければ勧告、従わなければ命令という順ですから、最短でも数か月です。その間、臭いと鳴き声は続きます。他の部屋の退去が先に出ることは珍しくありません。

そして頭数が減っても、原状回復の金額は別に残ります。尿によるフローリングや下地への浸透は、表面の張替えでは止まらないことがあります。床の負担をどの単位で分けるかはフローリングの部分補修は経過年数が引かれませんに整理しました。

個別の事案で解除が通るかどうか、費用をどこまで請求できるかは、契約書の文言と使用状況で変わります。判断が要る段になったら弁護士に確認してください。動物の側の扱いは、獣医師に第41条の2の通報義務があることも含めて、行政の窓口が窓口になります。

今日できること

入居者名簿を開いて、ペットの飼育を届け出ている部屋と、届け出ていないのに飼育の形跡がある部屋を分けてください。そのうえで、共用部の臭いと毛について、いつ・どこで、という記録の様式を1枚作っておきます。苦情が2件目に入った日に、すぐ出せる形になります。

出典

動物の愛護及び管理に関する法律(昭和48年法律第105号)第7条、第9条、第25条第1項から第5項まで、第35条、第41条の2、第44条第2項・第4項、動物の愛護及び管理に関する法律施行規則(平成18年環境省令第1号)第12条、第12条の2(いずれもe-Gov法令検索で2026年9月22日に現行条文を確認)。さいたま市「犬及び猫を合計10頭以上飼育する場合の届出について」、埼玉県「犬猫を10頭以上飼っている方へ」(いずれも2026年9月22日閲覧)。

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