外階段の赤錆は、専門家を呼ぶ合図です|大家が日常の目視で見るサインと3年ごとの点検
階段の下から見上げると、段板を受けている桁の下端が、赤茶色に粉をふいていました。指でこすると、塗膜ごとぱりぱりと落ちる。落ちたあとには、板状に浮いた錆が残っていました。三段目の裏だけです。他の段は、まだ灰色の塗装が残っています。
結論からお伝えすると、この「赤錆が出ている」という状態は、大家が自分で様子を見てよい段階ではなく、専門家の点検を受ける段階です。国が出したガイドラインが、専門家を呼ぶ状態を名指しで並べていて、その先頭に近いところに「赤錆の発生」が書かれています。
その錆は、法律の言葉では「腐食」です
建築基準法12条1項は、特定建築物の所有者に定期の調査と報告を求めている条文です。その調査の中身を、条文はこう書いています。
「これらの建築物の敷地及び構造についての損傷、腐食その他の劣化の状況の点検を含み」(建築基準法12条1項)
錆は、条文が名前を挙げている劣化のひとつです。掃除で落ちる汚れと同じ列には置かれていません。あとで見るように、この条文が直接かかるアパートは限られていますが、「錆は点検すべき劣化である」という扱いは、法律の側で先に決まっているということです。
なぜ屋外階段だけ、これほど細かく決まったのか
2021年(令和3年)4月、東京都八王子市の木造共同住宅で、屋外階段が崩落し、住民が亡くなりました。亡くなられた方とご家族に、まずお悔やみを申し上げます。
国土交通省はこの事故を受けて調査を行い、東京都と神奈川県で報告された241件の共同住宅のうち、屋外階段の劣化などによる危険性が見られた6件について、支保工の設置などの安全対策が進められたことを公表しています(令和3年6月1日、住宅局建築指導課)。
そして2022年(令和4年)1月、技術的助言として「木造の屋外階段等の防腐措置等ガイドライン」がまとめられました。名前は「木造の」ですが、維持管理の章の最後にこう書かれています。
「このほか、鉄骨造の屋外階段の維持管理にあたっても、上記【維持管理・点検の方法】の(1)及び(2)に留意して点検等を実施することが望ましい」
つまり、鉄骨の外階段を持っている大家も、同じ(1)と(2)を読むことになります。
日常の点検は、大家の仕事だと名指しされています
ガイドラインの(1)は「所有者、管理者等による適切な維持管理」という見出しで、こう始まります。
「建築物の所有者、管理者等は、日常的に、屋外階段の階段部材にひび割れ、錆又は腐食、腐朽、損傷、虫害、防水層の損傷等の劣化現象及び水分の滞留、水漏れ等が生じていないかを目視により確認し、必要に応じて、専門家による点検、交換・改修等の措置を講じる」
ここは業者に頼む話として書かれていません。目視で見るのは所有者か管理者だと書いてあります。手すりを揺すったり、被覆を外したりする必要はなく、階段の下から見上げて、錆と水の残りを探すだけです。

専門家を呼ぶのはどの状態からですか?
ガイドラインの(1)2)が、その線を引いています。日常の点検で次のものが確認された場合は、専門家の点検を受けるとされています。
- 著しい汚れや摩耗
- 変形
- 赤錆の発生
- 塗膜面のふくれ、または、はがれ
- 蟻道の発生や昆虫による食害
- 腐朽による軟化が疑われる不具合
- 著しい水分の滞留、水漏れ
冒頭の「粉をふいた赤茶色」と「こすると落ちる塗膜」は、この3番目と4番目にそのまま当たります。錆の面積や進み方を大家が判断する段ではなく、赤錆が出ていること自体が呼ぶ理由という書き方になっています。
専門家の点検は、3年に1回が目安
ガイドラインの(2)は「専門家による定期的な点検」です。頻度はこう書かれています。
「専門家により、竣工から概ね1年以内に初期不良の点検、定期調査報告制度の頻度等も踏まえ、概ね3年以内毎に定期的な点検を受ける」
点検の方法も具体的です。点検口があれば、点検口から目視で見て総合的に判断する。点検口がない場合は、目視のほか、ファイバースコープによる点検、ドライバー等による触診を行う。その結果、劣化のおそれが認められる場合は、階段の被覆材を取り外して、目視、触診、含水率測定などを行う、とされています。
被覆材を外すところまで書いてあるということは、塗り直しの見積りだけを取って終わりにする作業ではないということです。見積りが「階段塗装工事一式」の1行で来たときは、被覆の内側を見たかどうかを聞く材料になります。
さいたま市では、2階建てのアパートに報告の義務はありません
ここで多くの大家がつまずくところに触れます。「役所に報告する制度があるなら、そのときに見てもらえるのでは」という期待です。
建築基準法12条1項の定期調査と報告は、特定建築物にかかります。どれが対象になるかは特定行政庁ごとに決まっていて、さいたま市が公表している一覧はこうなっています(さいたま市「定期報告が必要となる建築物・建築設備・防火設備・昇降機・工作物」)。
- 共同住宅(サービス付き高齢者向け住宅を除く)は、6階以上の階にあるものだけが対象。報告の間隔は3年
- サービス付き高齢者向け住宅である共同住宅は、3階以上の階の床面積の合計が100平方メートル超、2階の床面積の合計が300平方メートル以上、地階の床面積の合計が100平方メートル超のいずれかで対象
木造や軽量鉄骨の2階建て・3階建てのアパートは、通常の共同住宅として扱われます。6階以上ではないので、定期調査報告の対象に入りません。錆びた外階段があっても、報告書を出す義務はなく、役所が3年ごとに見に来るわけでもありません。
これは負担が軽いという話でもあります。同時に、誰も定期的に見てくれない状態だということです。制度の外にある建物ほど、日常の目視が唯一の入口になります。
報告が要らなくても、維持保全の計画をつくる義務は残ります
報告の義務がないことと、何もしなくてよいことは別です。建築基準法8条2項は、こう書いています。
「次の各号のいずれかに該当する建築物の所有者又は管理者は、その建築物の敷地、構造及び建築設備を常時適法な状態に維持するため、必要に応じ、その建築物の維持保全に関する準則又は計画を作成し、その他適切な措置を講じなければならない」
対象は建築基準法施行令13条の3で決まります。共同住宅は法別表第一(い)欄(二)項の用途なので、その用途に供する部分の床面積の合計が100平方メートルを超えるもの(200平方メートル以下のものは階数3以上に限る)が対象です。
30平方メートルの部屋が8戸ある2階建てのアパートなら、床面積の合計は240平方メートルです。200平方メートルを超えているので、この義務がかかります。定期報告は要らないが、維持保全計画は要るという組み合わせになります。
計画に何を書くかは、昭和60年建設省告示第606号が10項目で示しています。うち、階段に直接効くのは次のあたりです。
- 維持保全の実施体制(誰が見るか、委託するか、建築士を関与させるか)
- 点検(点検箇所、点検時期、点検者、点検に当たっての判断基準、結果の報告等)
- 修繕(修繕計画の作成、修繕工事の実施等)
- 図書の作成、保管等(維持保全計画書、確認通知書、竣工図、設備仕様書等)
- 資金計画(点検、修繕等の資金の確保、保険等)
この告示は、屋外階段を木造とした建築物についての留意事項として、点検時期と点検の判断基準を計画に定めることが規定される形に改められています。判断基準の例として挙げられているのは「屋外階段各部の木材に腐朽、損傷、虫害等、防水層の損傷等があること」です。「気になったら見る」ではなく、見る時期と、直しに移る状態を、紙に先に書いておくという考え方です。
なお、この告示の題名は「建築基準法第十二条第一項に規定する建築物の維持保全に関する準則又は計画の作成に関し必要な指針」で、当時の条文の書き方を引いています。いまの根拠は8条2項と施行令13条の3です。原典に当たったときに混乱しないよう、添えておきます。
やってはいけない直し方が、名指しで挙がっている
ガイドラインの6章は「劣化対策の観点から避けるべき設計・施工・維持管理事例」です。見積書と現場を見るときの手がかりになります。
- 水平面に施した防水層の上からビスを打っている(階段部材へ水分が継続的に浸入する原因になる)
- 防水層端部の立ち上がりが不十分である
- 腐朽等を防止するための薬剤処理が施されている木材に、鉄骨造の屋外階段のめっき処理面が接触している(鋼材の腐食が急速に進行するおそれ)
- 木造と鉄骨造を併用する屋外階段で、鉄骨造の階段部材の荷重を木造の階段部材で支持している
1つ目は、直したあとに悪くなる例です。滑り止めや金物を後付けするときにビスを打った場所が、次の錆の入口になります。「防水の上に何を留めたか」は、工事が終わったあとに写真がなければ分からなくなるので、その日に撮っておくほうが確実です。
定期調査の判定基準は、錆をどう扱っているか
参考として、定期調査報告のほうの判定基準も見ておきます。調査項目と方法を定めているのは平成20年国土交通省告示第282号で、「階段各部の劣化及び損傷の状況」の判定基準はこうなっています。
「モルタル等の仕上げ材にひび割れがあること、鋼材に錆又は腐食があること、木材に腐朽、損傷又は虫害があること、防水層に損傷があること等により安全上支障が生ずるおそれがあること又は安全上支障が生じていること」
報告の対象になっていないアパートでも、専門家が何を見て「支障が生ずるおそれ」と判断するのかは、この文に書いてあるとおりです。点検を頼むときの共通言語として使えます。
費用と、判断できない範囲について
塗り替えで済むのか、造り替えになるのかは、被覆の内側の減り方で変わります。金額の幅も、階段の構造、段数、足場の要否、隣地との距離で大きく動きます。ここで1つの数字を置くと、かえって判断を誤らせるため書きません。
そして、建物ごとの危険性の判定は、この記事ではできません。段板がたわむ、手すりが動く、桁の断面が減っているように見える——このような状態を見つけたときは、建築士か、特定行政庁である市の建築行政課に状況を伝えるところから始めてください。使用を制限するかどうかの判断も、専門家の目を通したうえでのものになります。
火災保険や賠償責任の話は、また別の線です。工作物の設置または保存に瑕疵があった場合の責任について、火災保険だけでは大家の賠償は埋まらない|民法717条に所有者の免責はありませんに整理しています。自分で見る5か所と、塗り直しか造り替えかの見分け方は、外階段のサビと手すりのガタつきはいつ直すかのほうが実務に近い並べ方をしています。

今日やることを1つだけ選ぶなら
階段の下に立って、下から見上げて、写真を3枚撮ってください。1枚目は階段全体、2枚目は桁の下端、3枚目は段板の裏側です。撮ったあと、その写真の中に赤錆か、ふくれた塗膜が写っていないかを見ます。写っていたら、その写真をそのまま持って専門家の点検を頼む段です。写っていなければ、次に撮る日をカレンダーに入れておきます。
出典
- 建築基準法8条・12条1項、建築基準法施行令13条の3・16条(e-Gov法令検索・2026年9月9日時点)
- 国土交通省「木造の屋外階段等の防腐措置等ガイドライン」(令和4年1月、屋外階段の防腐措置等検討TG)
- 国土交通省住宅局建築指導課「八王子市内階段崩落事故の共同住宅の施工者等が関与した共同住宅に係る調査結果等について」(令和3年6月1日)
- 建築物の維持保全に関する準則又は計画の作成に関し必要な指針(昭和60年建設省告示第606号)
- 建築物の定期調査報告における調査及び定期点検における点検の項目、方法及び結果の判定基準並びに調査結果表を定める件(平成20年国土交通省告示第282号)
- さいたま市「建築基準法に基づく定期報告制度について」(2026年8月1日更新)/同「定期報告が必要となる建築物・建築設備・防火設備・昇降機・工作物」
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