アパートの掲示板に法律上の設置義務はありません|大家が貼る紙と、工事業者が貼る紙は別です
退去後の原状回復工事が始まる朝、業者の方が階段脇の壁に紙を3枚貼っていきました。青い枠の許可票が1枚、A4の用紙が2枚。大家は1枚も貼っていません。工事が終わると、3枚とも剥がされて無くなりました。
結論からお伝えすると、アパートの敷地に掲示板を常設しなさいと定めた法律は見当たりません。掲示の義務が出てくるのは「工事をしているあいだ」だけで、貼る側も大家ではなく工事をする側です。ただし、大家が業者に請け負わせず自分で施工すると、貼る側が大家に移ります。
常設の掲示板を義務づけた条文は見当たりません
賃貸の管理に関わる法律で「標識を掲げなければならない」と書いてあるのは、賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律(賃貸住宅管理業法)19条です。条文はこうなっています。
「賃貸住宅管理業者は、その営業所又は事務所ごとに、公衆の見やすい場所に、国土交通省令で定める様式の標識を掲げなければならない」
掲げる場所は営業所か事務所です。管理している物件の敷地ではありません。管理会社の事務所の入口に登録番号の入った標識が貼ってあるのは、この条文によるものです。管理を委託していても、その標識がアパートの側に来ることはありません。
仲介と管理で掲示の扱いが分かれる点は 管理と仲介を同じ会社に頼んでいる大家が見るところ|報酬に上限と掲示があるのは仲介の側だけです にまとめています。

工事が始まると、貼られる紙は3種類あります
常設の義務はない一方で、工事の期間中は法律で掲示が求められる紙が出てきます。原状回復のような小さな工事でも、規模と内容によって次のいずれかが該当します。
1. 建設業の許可票(建設業法40条)
建設業法40条は、建設業者に「その店舗及び建設工事(発注者から直接請け負つたものに限る。)の現場ごとに、公衆の見やすい場所に」標識を掲げることを求めています。記載する事項は建設業法施行規則25条1項で5つに決まっています。
- 一般建設業又は特定建設業の別
- 許可年月日、許可番号及び許可を受けた建設業
- 商号又は名称
- 代表者の氏名
- 主任技術者又は監理技術者の氏名
5番目の技術者の氏名は現場に掲げる標識だけの項目で、店舗に掲げる標識には要りません(同条1項)。現場の許可票に人の名前が入っているのは、このためです。
2. 確認の表示(建築基準法89条)
建築基準法89条1項は、同法6条1項の建築、大規模の修繕、大規模の模様替の工事の施工者に、現場の見やすい場所へ建築主・設計者・工事施工者・工事の現場管理者の氏名または名称と、建築確認があった旨を表示させています。同条2項では設計図書を現場に備えることも求めています。内装の張り替えだけなら該当しませんが、階段の架け替えや構造部分に及ぶ工事では出てきます。
3. 石綿の事前調査の結果
石綿障害予防規則3条8項は、解体等の作業を行う作業場に調査終了日、調査を行った部分、材料ごとの石綿の有無の概要を「見やすい箇所に掲示する」ことを事業者に求めています。大気汚染防止法18条の15第5項にも同じ趣旨の掲示義務があり、こちらは記録の写しを現場に備え置くことまで書かれています。
大家が自分で直せる範囲との線引きは 大家が自分で直してよい範囲はどこまでか|壁の中のコンセント交換は資格が要ります で整理しています。
許可票が1枚しか貼られていないのは、手抜きではありません
以前は、元請も下請も、それぞれの会社が現場に許可票を掲げていました。10社が入れば10枚並びました。
これは2020年10月1日に変わりました。建設業法及び公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律の一部を改正する法律(令和元年法律第30号)により、40条に「(発注者から直接請け負つたものに限る。)」というかっこ書きが入り、下請業者が現場に標識を掲げる義務はなくなりました。改正前の条文には、このかっこ書きがありません。
したがって、現場に許可票が1枚だけというのは、いまの条文どおりの状態です。枚数が減ったことをもって「下請の素性が分からない」と読むのは正しくありません。下請まで含めた体制は、標識ではなく施工体制台帳や作業員名簿の側で確認する話になります。

大家が自分で施工すると、貼る側が変わるのですか?
変わります。ここがいちばん見落とされる点です。
大気汚染防止法18条の15は、掲示の義務を負う者として「元請業者又は自主施工者」を並べています。自主施工者は同条4項で「解体等工事を請負契約によらないで自ら施工する者」と定義されています。大家が業者に発注せず、自分で壁を剥がしたり天井を外したりすれば、この自主施工者に当たり得ます。そのときは調査も記録も掲示も、大家の側の仕事になります。
もうひとつ、業者に頼んだ場合でも大家に直接かかる条文があります。大気汚染防止法18条の15第2項は、解体等工事の発注者は、元請業者が行う調査に要する費用を適正に負担し、調査に協力しなければならないと定めています。「調査費用は業者の持ち出しで」と値引きを求める形は、この条文と噛み合いません。
では、入居者向けの掲示板は置かなくてよいのですか?
法律上の設置義務はありません。置くかどうかは大家の判断です。判断材料として、都合の悪い側も並べておきます。
- 置いた掲示板は、避難の通り道をふさぐ物になり得ます。消防法8条の2の4は、共同住宅を含む防火対象物の管理について権原を有する者に、廊下・階段・避難口について避難の支障になる物件が放置されないよう管理することを求めています。壁から大きく張り出す形や、階段の踊り場に置く形は避けることになります
- 貼った紙は、誰かが剥がさないと残り続けます。去年の工事の告知や、終わったキャンペーンの紙が残っている掲示板は、新しい紙が読まれなくなります
- 部屋番号と氏名を並べて貼る形は、個人情報の扱いの問題になります。掲示で足りる内容かどうかを、貼る前に一度見ることになります
逆に、掲示が効く場面もはっきりしています。ごみの出し方は アパートのごみ置き場とリチウムイオン電池|大家が貼るのは「行き先」です、工事の告知は 工事のお知らせは何日前に出すか|大家が法律の締切に頼れないのはここです に、それぞれ実務の形をまとめています。
大家が今日のうちにできること
- 次に工事が入るとき、貼られた紙を1枚だけ写真に撮る。許可票の許可番号と技術者の氏名が入っているかを見れば、元請がどこかが1枚で分かります
- 掲示板がある物件は、いちばん古い紙の日付を見る。1年以上前の紙が残っていたら、その掲示板は読まれていません
- 自分で工事をする予定があるなら、先に石綿の調査を誰が行うかを決める。請け負わせない形にすると、調査も掲示も大家の側の仕事になります
建物の状態について役所から報告を求められたときの手順は 役所から建物の報告を求められた大家が最初に確かめる3つ|12条5項の報告に所有者の罰金はありません に、消防設備の点検と報告の頻度は アパートの消防設備点検は業者に頼むしかないのか|大家の報告は3年に1回です にあります。
なお、石綿の調査や報告が具体的にどこまで必要かは、工事の規模と建物の年代で変わります。個別の判断は、労働基準監督署または都道府県の大気汚染防止法の担当窓口、および建築士や施工業者に確認してください。
出典
- 建設業法(昭和24年法律第100号)40条、建設業法施行規則(昭和24年建設省令第14号)25条(e-Gov法令検索・2026年9月13日時点)
- 建設業法及び公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律の一部を改正する法律(令和元年法律第30号)による40条の改正・令和2年10月1日施行(e-Gov法令検索の時点指定で改正前後を確認・2026年9月13日時点)
- 建築基準法(昭和25年法律第201号)89条(e-Gov法令検索・2026年9月13日時点)
- 石綿障害予防規則(平成17年厚生労働省令第21号)3条8項(e-Gov法令検索・2026年9月13日時点)
- 大気汚染防止法(昭和43年法律第97号)18条の15第2項・第4項・第5項(e-Gov法令検索・2026年9月13日時点)
- 賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律(令和2年法律第60号)19条(e-Gov法令検索・2026年9月13日時点)
- 消防法(昭和23年法律第186号)8条の2の4(e-Gov法令検索・2026年9月13日時点)
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