共用廊下の私物を大家が勝手に片づけることはできません|罰金が出るのは命令が出たあとです
2階の共用廊下に、たたんだ段ボールが3束。階段の下に子ども用の自転車が1台。1階の玄関前には傘立てと、中身の入った灯油のポリタンクが2つ。どれも入居者の物で、置いた人は分かっています。
結論からお伝えすると、大家が黙って片づけて捨てることはできません。一方で、置かれたままにしておくと、管理を怠っているとされる側は大家です。消防法は、この2つを別々の条文で、別々の相手に向けて書いています。どちらか一方だけを読むと、動けなくなります。

「避難上必要な施設」の管理を義務づけられているのは誰ですか
消防法8条の2の4です。条文はこうなっています。
「学校、病院、工場、事業場(中略)その他の防火対象物で政令で定めるものの管理について権原を有する者は、当該防火対象物の廊下、階段、避難口その他の避難上必要な施設について避難の支障になる物件が放置され、又はみだりに存置されないように管理し、かつ、防火戸についてその閉鎖の支障になる物件が放置され、又はみだりに存置されないように管理しなければならない」
「政令で定めるもの」は消防法施行令4条の2の3で、別表第一に掲げる防火対象物(同表(十八)項から(二十)項までを除く)とされています。除かれているのはアーケード、山林、舟車の3つだけで、共同住宅(別表第一(五)項ロ)は入ります。2階建てでも6戸でも、この条文の対象です。
「管理について権原を有する者」は、共用部について実際に管理する立場にある人を指します。自主管理なら大家、管理を委託していても共用部の処分を決める立場は通常は大家の側に残ります。委託で何が移り何が残るかは アパートの共益費は何に使うお金か|大家が上げられるのは実費が動いたときだけ と合わせて読むと整理できます。
この条文自体には、罰金が付いていません
意外に思われるかもしれませんが、8条の2の4に違反したこと自体を処罰する条文は、消防法の罰則の章に見当たりません。罰則を定めた41条と44条を開いても、この条番号は挙がっていません。
罰金が出てくるのは、命令が出たあとに動かなかったときです。
- 消防法5条の3第1項の命令に違反=41条1項1号により1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金(同条2項により併科できます)
- 消防法3条1項の命令に従わなかった=44条1号により30万円以下の罰金または拘留
つまり、廊下に物があること自体で大家がいきなり罰せられる仕組みにはなっていません。順番は「管理義務 → 立入検査 → 命令 → 罰則」です。だからといって放っておいてよい話ではなく、命令の名あて人になるのは、置いた人だけとは限りません。
命令は、置いた入居者にも直接飛びます
消防法5条の3第1項は、命令の相手をこう書いています。
「火災の予防に危険であると認める行為者又は火災の予防に危険であると認める物件若しくは消火、避難その他の消防の活動に支障になると認める物件の所有者、管理者若しくは占有者で権原を有する者」
「物件の所有者」が入っています。廊下に置かれた段ボールの持ち主が入居者なら、その入居者に対して消防吏員が直接命令を出せます。措置の中身は消防法3条1項が定めていて、3号が「危険物又は放置され、若しくはみだりに存置された燃焼のおそれのある物件の除去その他の処理」、4号が「放置され、又はみだりに存置された物件(前号の物件を除く。)の整理又は除去」です。
灯油のポリタンクは3号、段ボールも燃焼のおそれのある物件として3号、自転車は4号の側にあたる整理がされることが多い形です。大家が「消防に言われた」と伝書鳩になるのではなく、消防が入居者に直接言える構造になっているという点が、実務では効きます。
持ち主が分からないときは、消防が動ける道があります
誰が置いたか分からない自転車や家具は、ここに当たります。消防法5条の3第2項は、権原を有する者を確知することができないため命令ができないときは、それらの者の負担において消防職員に3条1項3号または4号の措置をとらせることができると定めています。
ただし手続きが付いています。相当の期限を定めて、その措置を行うべき旨と、期限までに行わないときは消防職員が行う旨を、あらかじめ公告しなければなりません(緊急の必要があると認めるときを除く)。そして同条3項で、除去した物件は消防長または消防署長が保管しなければならないとされています。捨てるのではなく、いったん保管です。
公的な仕組みの側にも、この段取りがあります。大家が自分で同じことをする場合も、実務上は同じ段取りを踏むことになります。
大家が自分で捨てると、どうなりますか
持ち主が分かっている物を、大家の判断で処分することは自力救済にあたり、原則として認められていません。相手が契約に違反していても、権利の実現は法的な手続きによる、というのが民事の原則です。同じ考え方は無断駐車でも出てきます。アパートの駐車場に無断駐車があったとき|タイヤロックは大家がやってはいけません に、やってはいけない側の行為を並べています。
手を付ける前に踏む段は、無断でペットを飼われていた場合と同じ形になります(無断でペットを飼われていたら|大家が「すぐ解除」の前に踏む4つの段)。共用部の私物では、次の順が現実的です。
- 写真を撮る。日付が入る形で、物の全体と、通路のどこを何センチふさいでいるかが分かる角度で
- 掲示と書面の両方で知らせる。掲示だけだと「見ていない」と言われます。部屋を特定できる物は、その部屋に書面を入れます
- 期限を切る。「◯月◯日までに移動がないときは、管轄の消防署に相談します」と、次に何が起きるかまで書きます
- それでも残るものは、消防署に相談する。5条の3の命令は、大家ではなく消防が出す仕組みです

消防の立入検査は、部屋の中には入れません
立入検査の根拠は消防法4条1項です。消防長または消防署長は、火災予防のために必要があるときに、消防職員に「あらゆる仕事場、工場若しくは公衆の出入する場所その他の関係のある場所」に立ち入って検査させることができます。
ただし同項ただし書に「個人の住居は、関係者の承諾を得た場合又は火災発生のおそれが著しく大であるため、特に緊急の必要がある場合でなければ、立ち入らせてはならない」と書かれています。共用廊下は入れて、住戸の中は原則として入れません。「消防が見に来るから部屋も片づけて」という言い方は、条文の作りとずれています。
なお、立入検査を拒み、妨げ、忌避した場合は44条2号により30万円以下の罰金または拘留の対象です。これは共用部の話として大家の側にかかってきます。
階段そのものの傷みは別の点検で見ます。外階段の赤錆は、専門家を呼ぶ合図です|大家が日常の目視で見るサインと3年ごとの点検 に、見る場所と頻度をまとめています。
大家が今日のうちにできること
- 廊下と階段を、端から端まで1回だけ歩く。物の有無ではなく、人が横向きにならずに通れるかを見ます。避難は荷物を持った人が通る前提です
- 防火戸と、その戸が閉まる先に物がないかを見る。8条の2の4は、廊下や階段と並べて防火戸を名指ししています。戸当たりにマットや傘立てが置かれている例は多い形です
- 置かれていた物を1つだけ写真に撮り、日付とともに保存する。あとで期限を切るときに、いつからあるかが言えます
対応した記録を管理会社に残してもらう頼み方は 大家が管理会社に対応履歴を残してもらうには|法令上の報告は年1回で足ります にあります。
個別の物件でどこまでが「避難の支障」に当たるかは、建物の構造と避難経路によって変わります。判断は管轄の消防署の予防担当に、契約解除まで視野に入る場合は弁護士に確認してください。
出典
- 消防法(昭和23年法律第186号)3条1項、4条1項、5条の3第1項から第3項、8条の2の4、41条1項1号・2項、44条1号・2号(e-Gov法令検索・2026年9月13日時点)
- 消防法施行令(昭和36年政令第37号)4条の2の3(e-Gov法令検索・2026年9月13日時点)
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