アパートを夫婦の共有名義にすると何が起きるか|2分の1ずつでは過半数になりません
結論からお伝えすると、アパートを夫婦で2分の1ずつの共有名義にすると、賃貸経営の「決める」がほぼ全部止まります。民法252条1項は、共有物の管理に関する事項は「各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する」と定めています。2分の1は、過半数ではありません。
共有名義そのものは悪い選択ではありません。相続のときに効きますし、所得を分けられます。ただし持分の割り方を1対1にした瞬間に、意思決定の仕組みが変わることは、登記する前に知っておいたほうがいい話です。

1人でできること、過半数が要ること、全員が要ること
民法は共有物への関わり方を3段階に分けています。
- 保存行為——1人でできる(252条5項)。雨漏りの修繕、給湯器の交換、不法占拠者への明渡し請求
- 管理に関する事項——持分の価格の過半数(252条1項)。賃貸借契約の締結と解除、管理会社の選定と変更、賃料の決定、管理者の選任と解任
- 変更——共有者全員の同意(251条1項。「その形状又は効用の著しい変更を伴わないもの」は除かれます)。建て替え、用途を変えるような大規模改修、売却
ここに2分の1ずつを当てはめると、真ん中の段がまるごと動かなくなります。夫が「家賃を3,000円下げて決めよう」と言い、妻が「下げたくない」と言えば、どちらの持分も過半数に届きません。決まらない、という状態がそのまま続きます。
もっとも、雨漏りは1人で直せます。空室が埋まらないまま何も決まらない一方で、修繕だけは片方の判断で進む。これが2分の1ずつの実際の姿です。
賃貸借契約は3年までなら「管理」の範囲
民法252条4項は、過半数で設定できる賃借権等の期間を定めています。建物の賃借権等は3年(同項3号)。土地は5年、山林は10年、動産は6か月です。
普通借家の2年契約はこの枠に収まりますが、更新で終わらない性質があるため、共有物の管理として過半数だけで設定できるかは慎重な整理が必要だとされています。定期借家で3年を超える契約を結ぶような場面では、共有者全員の合意を取っておくほうが安全です。ここは弁護士・司法書士にご確認ください。
費用は持分に応じて、収入も持分に応じて
民法253条1項は「各共有者は、その持分に応じ、管理の費用を支払い、その他共有物に関する負担を負う」と定めています。修繕費も固定資産税も、持分割合です。
税務も同じ考え方で、不動産所得は持分割合で按分して、それぞれが確定申告します。夫婦で2分の1ずつなら、家賃収入も経費も減価償却も半分ずつ。所得が分散するので、累進税率のもとでは世帯としての税負担が下がることがあります。これが共有名義の最大の利点です。経費の範囲は賃貸経営で経費にできるもの・できないものを、法人にする場合との比較は大家の法人化は所得900万円が目安なのかを参照してください。
お金を出していないのに持分をもらうと、贈与になります
ここが実務でいちばん事故になります。国税庁のタックスアンサー No.4411「共働きの夫婦が住宅を買ったとき」は、具体的な数字で説明しています。
「総額3,000万円の住宅を購入し、夫が2,000万円、妻が1,000万円の資金負担をしたものの、所有権の登記は夫と妻それぞれの持分を2分の1とした場合」——「妻の所有権は登記持分の2分の1ですから、3,000万円の2分の1の1,500万円となります。しかし、購入のための資金は1,000万円しか負担していませんから、差額の500万円については夫から妻へ贈与があったことになります」(出典:国税庁 タックスアンサー No.4411/令和7年4月1日現在法令等。根拠法令は相続税法9条)。
同じページは「資金の負担割合に応じて夫3分の2、妻3分の1の所有権登記がなされていれば、贈与税の問題は生じません」とも書いています。持分は気持ちで決めるものではなく、出したお金で決まります。 頭金・ローンの名義・諸費用の負担者を紙に書き出してから、持分を決めてください。
片方が住んだら、もう片方に対価を払う義務がある
2023年4月に施行された改正で、民法249条2項に次の定めが入りました。
「共有物を使用する共有者は、別段の合意がある場合を除き、他の共有者に対し、自己の持分を超える使用の対価を償還する義務を負う」。
アパートの1室に夫婦のどちらかの親を住まわせる、1階を自宅にする、といった使い方をするなら、持分を超える分の対価の扱いを先に決めておく必要があります。「別段の合意がある場合を除き」なので、決めておけば済む話です。決めていないと、後から精算の対象になります。
離婚したら共有はどうなるのか?
民法256条1項は「各共有者は、いつでも共有物の分割を請求することができる」と定めています。相手の同意は要りません。 話し合いがつかなければ裁判所の手続きになり、現物を分けられないアパートでは、競売による代金分割まで進むことがあります。
分割をしない旨の契約はできますが、期間は5年が上限で、更新しても更新時から5年を超えられません(同条1項ただし書・2項)。共有は「いつでも解消を求められる状態」が原則だと考えておいてください。
相続で共有になる場合も同じ構造です。相続開始から遺産分割までの家賃の扱いは相続したアパートの家賃は誰のものかで扱っています。

都合の悪いことも書いておきます
- 共有者が増えるほど動かなくなります。 夫婦2人なら話し合えますが、次の相続で子3人に分かれると、過半数を集めること自体が仕事になります
- 持分だけを売ることはできますが、買う人はほとんどいません。 買い取り業者が持分を買って共有者になる、という展開は実際に起きています
- 確定申告が2人分になります。 帳簿も2人分。青色申告の届出もそれぞれです(青色申告にすると何が変わるか)
- 事業的規模(おおむね5棟10室)の判定を持分で割るのかどうかは、所得税基本通達26-9に書かれていません。 判断が分かれる論点なので、共有で申告する前に税理士・税務署に確認してください
- 登記・税務・離婚時の扱いはいずれも個別事情で変わります。この記事は一般的な整理です
登記する前に、この順番で決める
- 頭金・ローン・諸費用を誰がいくら出したかを書き出す
- その負担割合と同じ持分にする(違う持分にするなら、贈与になることを承知のうえで)
- 2分の1ずつにするなら、意見が割れたときの決め方を先に紙で決めておく
- どちらかが部屋を使う予定があるなら、対価の扱いを合意しておく(民法249条2項の「別段の合意」)
- 次の相続で持分がどう割れるかを、いま一度だけ想像しておく
相続で引き継いだ場合の最初の一歩は親のアパートを相続した。まず何から手をつけるかにまとめています。急ぐ必要はありません。決めるべきは、登記の前の1枚の紙です。
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