送金明細書から引かれている5つの項目|大家が承諾していないものは差し引けません
送金明細書は、たいてい1枚の紙です。上から部屋番号、入居者名、家賃、共益費が並び、右側に「控除」と書かれた列がある。振込額が家賃の合計と一致しないのは当たり前で、見るべきはその差額が何行に分かれているかです。行数が少ないほど、中身は見えなくなります。「諸経費」の1行だけで1万数千円が消えている明細は、珍しくありません。
結論からお伝えすると、家賃から差し引いてよいのは、あらかじめ大家さんが承諾したものだけです。国が示している契約書のひな型には、そう書かれています。そして差し引く可能性があるなら、その旨を契約書に書いておくこと、とまで注意書きが付いています。つまり明細が読めないときに確かめる先は、管理会社ではなく、まず自分の契約書です。
送金明細書には、法律で決まった様式がありません
意外に思われるかもしれませんが、送金明細書の書式を定めた法律はありません。賃貸住宅管理業法18条は管理会社に帳簿の備付けを義務づけていますが、そこに書く事項は施行規則38条1項で6つと決まっており、委託者名・契約年月日・対象の住宅・管理業務の内容・報酬の額・特約その他参考となる事項です。入出金の明細は入っていません。「業法の帳簿を見せてください」と言っても、毎月の入金明細は出てきません(この点は家賃はいつ大家の口座に入るのかで詳しく書いています)。
拠り所になるのは契約書のほうです。国土交通省の「賃貸住宅標準管理受託契約書」第7条2項は、入居者から徴収した当月分の家賃等を頭書に記載した期日までに振り込んで引き渡す、と定め、続く3項でこう書いています。
前項の場合において、乙は、当月分の管理報酬で家賃等から差し引くことについてあらかじめ甲の承諾を得ているものを差し引くことができる。
さらに同契約書の《作成にあたっての注意点》は、第7条について「乙が甲に引き渡す家賃等から所定の管理報酬を差し引く場合や、甲と入居者との賃貸借契約終了後、未払家賃並びに修繕費等入居者の負担すべき金額を控除し、甲に返還する場合は、その旨を記載すること」としています。差し引く前提なら契約書に書いておけ、というのが国の立て付けです。

差し引かれている5つの項目を、1つずつ見る
①管理手数料|家賃は非課税、手数料は課税
住宅の家賃には消費税がかかりません。消費税法の別表第二第十三号が「住宅(人の居住の用に供する家屋又は家屋のうち人の居住の用に供する部分をいう。)の貸付け」を非課税と定めているためです。一方、管理という役務の提供にはかかります。明細の中で、非課税の家賃と課税の手数料が混ざっていないかが最初の確認点です。
- 手数料率の対象が家賃だけか、共益費や駐車場代を含む総収入か(同じ5%でも金額が変わります)
- 空室の月に手数料が発生していないか(満室想定で計算されていないか)
- 消費税の記載があるか
手数料の水準そのものについては管理手数料5%は高いのかと管理手数料に含まれるもの・含まれないもので扱っています。ここで見るのは率ではなく、掛けている相手です。
②原状回復費・修繕費|「勝手にやられた」の前に頭書を見る
標準管理受託契約書の第6条2項には、大家さんが見落としがちな条項があります。管理会社が立て替えた費用について、1件当たりの金額が頭書で定めた額を超えないものは大家さんの承諾が要らず、超えるものは予め協議する、という決め方です。10万円と書けば9万円台の工事は連絡なしで進みますし、空欄のまま契約していれば、そもそも基準がありません。
費用の請求のしかたも第5条2項に書かれています。「乙からその明細を示した請求書を甲に提示し」とあり、明細のない請求は契約書が想定していない形です。金額の妥当性を見るには単価が要ります。たとえばクロスの張替えは、大家さんの内装屋の料金表でスタンダードクロスが1㎡あたり1,088円(税抜・古いクロスのめくり代、残材処分代、下地処理代を含む)です。これは継続して発注する事業者向けのいわゆる業者価格で、個人が単発で頼む場合は2〜3割ほど上になります。負担区分そのものは原状回復の費用は誰が払うのかをご覧ください。
③広告料(AD)|宅建業法の上限の外にあるわけではない
ここがいちばん誤解されています。宅建業法46条2項は「宅地建物取引業者は、前項の額をこえて報酬を受けてはならない」と定め、その額は国土交通大臣の告示(昭和45年建設省告示第1552号、最終改正 令和6年6月21日国土交通省告示第949号)で決まっています。貸借の媒介は、依頼者の双方から受ける報酬の合計が借賃1か月分の1.1倍以内。居住用の建物では、依頼を受けるにあたって承諾を得ている場合を除き、一方から受けられるのは0.55倍までです。
そのうえで告示第十一①は、これ以外の報酬を禁じたうえで、ただし書で「依頼者の依頼によって行う広告の料金に相当する額」だけを例外にしています。国交省の「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」は、この点をさらに具体的に書いています。
告示第二から第十までの規定による報酬及び依頼者の依頼によって行う広告の料金に相当する額以外にいわゆる案内料、申込料や依頼者の依頼によらずに行う広告の料金に相当する額の報酬を受領することはできない。
同じ解釈・運用は、媒介契約について「通常の広告、物件の調査等のための費用は、宅地建物取引業者の負担となる」とし、特別に広告を依頼されたときは「あらかじめ、依頼者に…請求する費用の見積りを説明してから実行すべき」ともしています。依頼していない広告の料金は、名目を変えても受け取れないというのが条文と通達の形です。何か月分が経営として妥当かは広告料(AD)は何か月分が適正かで扱っていますので、ここでは枠の話にとどめます。
④保証料・更新料などの立替|誰の負担かは契約で決まっている
家賃保証会社の初回保証料や更新保証料は、多くの契約で入居者負担です。ただし空室を埋めるために大家さん負担にしている物件もあり、その場合は送金から引かれます。入居者負担の建て付けなのに大家さんの明細から引かれているという食い違いは、契約書と突き合わせないと見つかりません。保証会社の仕組み自体は家賃保証会社は入れるべきかをご覧ください。
⑤振込手数料|民法の原則は「債務者の負担」
民法485条は「弁済の費用について別段の意思表示がないときは、その費用は、債務者の負担とする」と定めています。家賃を払う債務者は入居者ですから、入居者が振り込む際の手数料は原則として入居者側です。一方、管理会社から大家さんへ送金する際の手数料を誰が持つかは契約で決めます。参考までに、標準管理受託契約書の第5条2項但書は、費用を支払うときの「振込手数料は甲の負担とする」としています。金額は小さくても、毎月・全戸に効きます。

2024年7月に上限が上がったのに、アパートの空室では使えないのはなぜか?
令和6年7月1日に施行された告示の改正で、「長期の空家等」の貸借については、媒介で双方合計が借賃1か月分の2.2倍まで報酬を受け取れるようになりました(告示第九)。ただし条件があり、この特例が使えるのは借主から受ける報酬が従来の上限内(居住用は承諾がなければ0.55倍)に収まっている場合に限られます。解釈・運用の考え方も「通常の上限を超えて依頼者から受けることのできる報酬は、長期の空家等の貸主である依頼者から受けるものに限られる」と明記しています。増える分は、大家さんの負担です。
そして肝心なのがここです。同じ解釈・運用は「長期の空家等」の意味をこう説明しています。
なお、入居者の募集を行っている賃貸集合住宅の空き室については、事業の用に供されているものと解されることから、長期の空家等には該当しない。
例として挙がっているのは「少なくとも1年を超えるような期間にわたり居住者が不在となっている戸建の空き家や分譲マンションの空き室」、あるいは相続などで利用されなくなった直後の戸建などです。募集中のアパートの空室は、この特例の対象外ということになります。2.2か月という数字だけが一人歩きしやすいところなので、自分の物件が対象かどうかは先に確かめてください。
毎月3分で終わる、明細を見る順番
- 振込額と、家賃・共益費の合計の差額を出す(暗算でよい。ここが出発点です)
- 差額が何行に分かれているかを数える。「諸経費」のような1行にまとまっていたら、内訳を聞く
- 管理手数料の対象(家賃だけか、共益費・駐車場も含むか)を契約書と照らす
- 工事費は明細つきの請求書があるか。頭書に書いた「承諾不要の上限額」を超えていないか
- 初めて出てきた項目名は、その月のうちに聞く。3か月続くと既定の扱いになります
都合の悪いことも書いておきます。この確認を毎月やっても、管理会社の対応が急に良くなるわけではありません。効くのは、聞かれる前提で明細が作られるようになることです。逆に、契約書に承諾の記録が残っていない控除を過去にさかのぼって全部戻してもらう、という話は簡単には進みません。直せるのは、たいてい来月分からです。
まとめ
送金明細書に法定の様式はなく、拠り所は契約書です。差し引けるのは、あらかじめ承諾したものだけ。管理手数料は掛ける相手を、工事費は明細と頭書の上限額を、広告料は宅建業法の枠を見ます。振込手数料は誰の負担かを契約で確かめる。2024年7月に上がった2.2か月の上限は、募集中のアパートの空室には使えません。
なお、消費税の扱いや必要経費への計上のしかたは個別の事情で変わります。申告に関わる判断は、税務署または税理士にご確認ください。契約条項の効力についても、疑問が残る場合は弁護士・司法書士など専門家への相談をおすすめします。
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