直した工事に不具合が出たら、知った時から1年以内に「通知」です|大家が読む民法637条と636条
張り替えから4か月。次の入居者から「壁紙の継ぎ目が開いてきた」と写真が届きます。工事の書類を探すと、見積書の隅に「保証:引渡しから1年」と小さく印字されています。まだ1年たっていないから大丈夫。そう考えて、とりあえず業者に電話だけしておく方が多い場面です。
結論からお伝えすると、民法が大家に求めているのは、不具合を「知った時から1年以内」に業者へ「通知」することです。請求の中身を決めることでも、裁判を起こすことでもありません。一方で、大家が材料を渡した工事や、大家が「この品番で」と指図した部分の不具合は、原則として業者に直させることができません(民法636条)。この記事では、工事の不具合が出たときに大家が確かめる順番を、条文から整理します。
2020年4月から、期限の数え方が変わりました
工事の請負は民法632条の契約で、仕上がりが契約の内容に合っていないときの責任(契約不適合責任)は、売買の条文を借りて決まります。民法559条が、売買の節の規定を「売買以外の有償契約について準用する」としているためです。
期限の条文は、2020年4月1日に大きく書き換わりました。e-Govの法令検索で日付を指定して取り直すと、違いがはっきり出ます。
| 時点 | 条文の中身 |
|---|---|
| 2020年3月31日まで(旧637条・旧638条) | 修補や損害賠償の請求は引き渡した時から1年以内に「しなければならない」。建物などの工作物は引渡し後5年、コンクリート造などは10年 |
| 2020年4月1日から(現637条) | 注文者が不適合を知った時から1年以内に、その旨を請負人に「通知」しないときは、請求できなくなる |
変わったのは2か所です。起点が「引き渡した時」から「知った時」へ、そしてやることが「請求」から「通知」へ。旧法の「建物は5年・10年」の条文(旧638条)は削除されました。
ただし、2020年3月31日までに結んだ工事の契約には、この新しい条文は使われません。民法の改正法(平成29年法律第44号)の附則34条1項が、施行日前に締結された請負の契約は「なお従前の例による」としているためです。古い工事の不具合なら、まず契約の日付を確かめてください。

「通知」とは、何をすればいいのですか?
条文は「その旨を請負人に通知しないときは」と書いているだけで、書面の形式を決めていません。ただ、あとで「言った・聞いていない」にならないよう、次の3つが残る形にしておくのが一般的な考え方です。
- どの工事か(工事の日付、部屋番号、見積書や請求書の番号)
- どこが、どう合っていないか(場所と状態。日付入りの写真を添える)
- いつ気づいたか(入居者から連絡を受けた日。1年の起点になります)
電話で伝えたなら、その日のうちにメールかSMSで同じ内容を送っておくと、日付と中身が残ります。工事の前後の写真をどう残しておくかは 原状回復の見積りが「一式」で来たら で触れた内訳の話とつながります。
通知したあと、請求できることは4つあります
通知で守られるのは「請求する権利」です。その中身は、売買の条文がそのまま効きます。
- 直してもらう(追完)……民法562条1項。ただし業者は、大家に「不相当な負担」を課さない範囲なら、大家が求めたのと違う方法で直すことができます(同項ただし書)
- 代金を減らしてもらう……民法563条1項。期間を決めて「直してください」と催告し、その期間内に直らないとき。直すことが不能な場合などは催告なしで請求できます(同条2項)
- 損害の賠償……民法564条が、415条の損害賠償を妨げないとしています
- 契約の解除……同じく564条が、541条・542条の解除を妨げないとしています
通知で期限を止めたあとは、一般の消滅時効(民法166条1項。知った時から5年、権利を行使できる時から10年)が別に進むと解されています。通知したまま放っておいてよい、という意味ではありません。
1年を過ぎても請求できる場合があります
637条2項は、仕事の目的物を引き渡した時に、業者がその不適合を知っていた、または重大な過失で知らなかったときは、1年の制限を使わないとしています。たとえば、下地が傷んでいるのを知りながら上から張って仕上げた、という事情があれば、この2項の問題になります。
同じ考え方は免責の特約にもあります。民法572条は、担保の責任を負わない特約をしていても、「知りながら告げなかった事実」については責任を免れないとしています。559条で工事にも準用されるため、「保証なし」と書かれた見積書でも、それだけで話が終わるわけではありません。
大家が材料を渡した工事は、原則として直させられません
ここが、大家がいちばん見落としやすいところです。民法636条はこう定めています。
注文者は、「注文者の供した材料の性質又は注文者の与えた指図によって生じた不適合」を理由として、直すことも、減額も、損害賠償も、解除も求めることができない。
賃貸の現場に置き換えると、次のような工事です。
- ネットで安く買った水栓やクロスを大家が用意し、取り付けだけ頼んだ(いわゆる施主支給)
- 「前と同じ品番で」「この一番安い床材で」と、大家が品番を指定した
- 下地の補修を省いて、上から張るだけにするよう大家が指示した
その材料や指図が原因で起きた不具合は、原則として大家の側の負担です。
ただし636条にもただし書があります。業者が、その材料や指図が不適当であることを知りながら告げなかったときは、この制限は使われません。だから、材料を渡すとき・品番を指定するときには、「この材料で問題はないか」を一言確かめておき、その返事を残しておくことに意味があります。

「保証1年」の印字は、何を決めているのか
見積書や契約書の「保証:引渡しから1年」は、当事者どうしの約束です。建設業法19条1項13号は、工事の請負契約の書面に書く事項として、「工事の目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない場合におけるその不適合を担保すべき責任……に関する定めをするときは、その内容」を挙げています。
読むべきなのは「定めをするときは」の部分です。期間や範囲は契約で決めてよく、決めたなら書面に書く、という形になっています。つまり、書面の「引渡しから1年」は民法の「知った時から1年以内に通知」とは別物で、どちらが優先するかは契約の書き方と事情で変わります。印字だけを見て「もう過ぎたから言えない」「まだ過ぎていないから急がなくていい」と決めないことです。
なお、新築住宅の構造と雨漏りについての10年の責任(住宅品質確保法)は新築の話で、原状回復やリフォームの工事には効きません。
都合の悪いことも書いておきます
- 管理会社の名前で発注した工事は、注文者が大家ではありません。その場合、業者に通知するのは管理会社で、大家は管理会社との委託契約に沿って動くことになります。自分が注文者かどうかは、請求書の宛名で確かめられます
- 入居者の使い方で傷んだものは、契約不適合ではありません。工事の不具合なのか、その後の使い方なのかは、工事直後の写真がないと分けられません
- 「不相当な負担を課さない」の線は、条文に数字がありません。業者の直し方に納得できないときの線引きは、個別の判断になります
ここに書いたのは条文の一般的な読み方です。金額が大きい工事や、業者と主張が食い違っている場合は、弁護士や各地の消費生活センター・建設工事紛争審査会などの窓口に確認してください。
不具合の連絡を受けた日にやる3つ
- 請求書の宛名と契約の日付を見る。注文者は誰か、2020年4月1日より前の契約かを確かめます
- その日のうちに、書面で通知する。工事の特定・不具合の場所と状態・気づいた日の3点と、日付入りの写真を添えます
- 材料と指図を思い出す。自分で用意した物や、品番を指定した部分が原因になっていないかを先に確かめます
工事代金の払い方との関係は 工事の前払いは法律上の原則ではありません、工事中の事故の責任は 工事中に入居者がけがをしても、大家は原則として責任を負いません に書きました。修繕の負担の分け方は 入居中に設備が壊れたときの修繕費、原状回復の範囲は 原状回復と「リフォーム」の線引き、費用の考え方は 原状回復を安くする方法と、安くしてはいけない場所 も参考になります。
(出典:e-Gov法令検索 民法166条・559条・562条〜564条・572条・632条・636条・637条、民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)附則34条、建設業法19条1項。旧637条・旧638条は2020年3月31日時点、ほかは2026年9月25日時点の条文)
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