既存不適格のアパートは、そのまま貸し続けられます|外れるのは工事と用途変更のときです

結論からお伝えすると、既存不適格のアパートはそのまま貸し続けられます。建築基準法3条2項が「当該規定は、適用しない」と書いているためで、違法建築ではありません。保護が外れるのは貸すときではなく、工事に着手したときと、用途を変えたときです(同3条3項3号、87条3項)。

この言葉は、役所からの通知や売買の重要事項説明で不意に出てきます。「既存不適格です」と書かれた紙を見て、直さなければ貸せないのかと考える方が多いのですが、条文の並びを見ると、どこで線が引かれているかがはっきりしています。

3条2項が言っているのは「適用しない」です

建築基準法3条2項の原文はこうです。

この法律又はこれに基づく命令若しくは条例の規定の施行又は適用の際現に存する建築物若しくはその敷地…がこれらの規定に適合せず、又はこれらの規定に適合しない部分を有する場合においては、当該建築物、建築物の敷地又は建築物若しくはその敷地の部分に対しては、当該規定は、適用しない。

「適用を猶予する」でも「経過措置として認める」でもなく、適用しないと書いてあります。建てた当時は適法で、あとから法律や条例が変わって基準に合わなくなった建物は、その新しい基準の外に置かれます。だから是正命令の対象にもなりません。

違反建築物と、どこが違うのですか

3条3項1号が、この2つを分けています。同号は、法令の改正後の規定の適用の際に「当該規定に相当する従前の規定に違反している建築物」には2項を適用しないと定めています。

つまり、建てた当時の基準にも違反していた建物は、そもそも既存不適格にはなりません。「古いから既存不適格」ではなく、「建てた当時は適法だった」ことが条件です。ここを取り違えると、売買のときに話がまるごと変わります。検査済証があるかどうかを先に探すのは、このためです。

3条3項5号にも、見落とされやすい定めがあります。「この法律…の規定に適合するに至つた建築物」には2項を適用しない、というものです。一度基準に合わせてしまうと、既存不適格の立場には戻れません。部分的に直したあとで別の基準に触れたとき、この号が効いてきます。

既存不適格の保護がどこで外れるかを6点で示した図。貸し続けるのは外れない、床やクロスの張り替えは大規模ではない、屋根と外壁の工事は緩和される、2分の1を超える増改築は全体の構造計算か切り離しが条件になる、用途変更は工事がなくても外れる、当時から違反だった建物は保護の外。

保護が外れるのは、この2つのときです

ここが記事の本題です。3条3項3号は、2項を適用しないものとして次を挙げています。

工事の着手がこの法律又はこれに基づく命令若しくは条例の規定の施行又は適用の後である増築、改築、移転、大規模の修繕又は大規模の模様替に係る建築物又はその敷地

この5つに着手すると、それまで適用されていなかった規定が、建物全体に戻ってきます。ここに「貸す」「入居者を入れ替える」「内装を直す」は書かれていません。賃貸に出し続けることは、3条3項のどの号にも当たりません。

もう1つの入口が用途変更です。87条3項は、3条2項によって27条・28条1項3項・29条・30条・35条から35条の3まで・48条・51条などの適用を受けない建築物の用途を変更する場合には、これらの規定を準用すると定めています。アパートの1室を事務所や店舗にするときは、工事をしなくても保護が外れる側に入ります(同項2号の類似用途間で修繕・模様替をしない場合などは除かれます)。

ただし、緩和の条文が別に用意されています

「大規模の修繕をしたら全部かかる」と読むと、築古のアパートは屋根も外壁も触れなくなります。そうならないように、86条の7が緩和を置いています。

86条の7第1項は、政令で定める範囲内で増築・改築・大規模の修繕・大規模の模様替をする場合は、3条3項(3号及び4号に係る部分)にかかわらず、これらの規定は適用しないと定めています。その政令の範囲は施行令137条の2以下にあります。押さえておく数字は2つです。

  • 増築・改築で、基準時における延べ面積の20分の1(50平方メートルを超える場合は50平方メートル)を超えないとき(施行令137条の2第3号)。もっとも緩い段で、増改築部分が現行基準に適合し、それ以外の部分の構造耐力上の危険性が増大しないことが条件です
  • その20分の1(50平方メートル上限)を超え、2分の1を超えないとき(同第2号)。耐久性等関係規定への適合と、大臣が定める基準への適合などが条件になります

2分の1を超える増改築も、緩和の外ではありません(同第1号)。ただしこの段では、建物全体を施行令第3章第8節の構造計算で確かめるか、エキスパンションジョイントなどで増改築部分を切り離し、既存部分は耐久性等関係規定と大臣が定める基準に合わせることが条件になり、求められる内容が一段重くなります。なお137条の2は構造耐力(法20条)についての範囲で、容積率や高さなど他の規定の扱いは別の条文で定められています。増築の計画が「延べ面積の半分」に近づいたときは、そこが分岐点です。「基準時」は施行令137条が定義していて、3条2項によって引き続きその規定の適用を受けない期間の始期を指します。今の延べ面積ではなく、この時点の延べ面積で割ります。

大規模の修繕や模様替のときはどうなりますか

こちらは施行令137条の12が、規定ごとに範囲を書き分けています。読むと、大規模の修繕・模様替については、かなり広く緩和されていることが分かります。

  • 構造耐力(法20条):「当該建築物の構造耐力上の危険性を増大させない全ての大規模の修繕又は大規模の模様替」(137条の12第1項)
  • 26条・27条・30条・34条2項・47条・51条・52条・53条・54条・55条・56条・56条の2ほか:「当該建築物における全ての大規模の修繕又は大規模の模様替」(同第7項)
  • 屋根の不燃化(22条1項)・62条:屋根以外の部分に係る全ての大規模の修繕・模様替(同第2項)
  • 外壁(23条):外壁以外の部分に係る全ての大規模の修繕・模様替(同第3項)

7項に並んでいるのは、容積率・建ぺい率・高さ制限・日影規制・耐火性能といった、築古のアパートでいちばん引っかかりやすい規定です。これらは大規模の修繕・模様替をしても戻ってきません。

さらに86条の7第3項は、28条(採光・換気)や29条から32条まで、35条の2、35条の3などについて、増築等をする場合でも「当該増築等をする部分以外の部分に対しては、これらの規定は、適用しない」と定めています。触った部分だけが現行基準になる、という形です。

まとめると、線はここに引かれています

実務で判断が必要になる順に並べます。

  1. 貸し続ける・入居者を入れ替える:3条3項に当たりません。そのまま続けられます
  2. クロスや床の張り替え、給湯器の交換:大規模の修繕・模様替に当たりません。法2条14号・15号は「大規模」を主要構造部の一種以上について行う過半の修繕(模様替)と定義しており、主要構造部は壁・柱・床・はり・屋根・階段です(法2条5号。間仕切壁・間柱・最下階の床・屋外階段などは除かれます)
  3. 屋根や外壁の大規模な工事:3条3項3号に当たりますが、137条の12でほぼ緩和されます
  4. 延べ面積の2分の1を超える増築:構造耐力の緩和は残りますが、建物全体の構造計算か切り離しが条件になり、求められる内容が一段重くなります(施行令137条の2第1号)
  5. 用途変更:87条3項で保護が外れます。工事がなくても入ります

1と2で止まる工事なら、既存不適格であることを理由に手が止まることはありません。問われるのは4と5です。

都合の悪いことも書いておきます

既存不適格のまま貸せることは、売れることや融資が付くことと同じではありません。金融機関は現行基準への適合を担保評価の条件にすることがあり、容積率超過の物件では融資が付きにくくなります。これは法律の話ではなく、各行の判断です。

また、3条2項は維持保全の義務(法8条)や、定期報告の制度を免除するものではありません。既存不適格であっても、建物を安全な状態に保つ義務は残ります。ここを「法律が適用されないのだから何もしなくてよい」と読むのは誤りです。

そして、自分の物件がどの規定について既存不適格なのか(容積率か、高さか、耐火か、階段か)は、図面と確認済証、建築計画概要書を突き合わせないと分かりません。この判定を記事で断定することはできません。建築士か特定行政庁の建築指導課に確認してください。

増改築の面積が基準時の延べ面積の20分の1以下、20分の1超2分の1以下、2分の1超のどれに当たるかで、施行令137条の2の構造耐力の条件が変わることを示した図。容積率や高さは別の条文。

今日できること

  1. 検査済証があるかを探す。無い場合は、建てた当時に適法だったことをどう示すかが先の課題になります
  2. 建築計画概要書を役所で取る。建てた当時の延べ面積が分かれば、「基準時」の面積の手がかりになります
  3. 増築を考えているなら、その面積が基準時の延べ面積の20分の1(50平方メートル上限)と2分の1のどちらの側かを先に計算する
  4. 1室を事務所や店舗に貸す話が来たら、工事の前に用途変更の可否を建築指導課に聞く。87条3項が効くのは工事の有無と関係ありません

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出典

  • 建築基準法3条2項・3項、86条の7第1項・第3項、87条3項(e-Gov法令検索・2026年9月23日時点。現行版は2026年5月27日施行。次の改正の施行日は2026年11月26日)
  • 建築基準法施行令137条、137条の2、137条の12(同・現行版は2025年12月1日施行)

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