アパートを売っても、管理会社との契約は買主に移りません|大家が売却を決める前に管理会社へ伝える理由
結論からお伝えすると、アパートを売ると決める前に、管理会社には一度伝えておいたほうがよいです。理由は、入居者との賃貸借契約は登記で買主に移るのに、大家さんと管理会社の管理委託契約は自動では移らないからです。民法539条の2は、契約上の地位を第三者に移すには、契約の相手方の承諾が要るとしています。国土交通省も、管理委託契約が買主に引き継がれない場合は、買主との契約は「新たな契約」になり、重要事項説明と契約書面の交付がやり直しになると整理しています。
管理会社に伝えることは、売却の仲介を頼むこととは別の話です。ここでは、売る前に管理会社と確かめることを、契約の順番に沿って整理します。
買主から最初に届くのは「管理はどうなりますか」という質問です
売却の話が進み、買主の候補が現れると、決まって聞かれることがあります。「いまの管理会社は、そのまま続けてもらえますか」「敷金はどこが預かっていますか」「滞納している部屋はありますか」。
どれも、答えを持っているのは大家さんより管理会社です。管理会社に話していないまま売却を進めると、この段階で初めて相談することになり、管理会社の側は「売却の話を買主の質問で知る」形になります。

入居者との契約と、管理会社との契約は、移り方が違います
売却で動く契約は2本あります。移り方がまったく違うので、先に分けておきます。
| 契約 | 当事者 | 売却するとどうなるか | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 賃貸借契約 | 大家さん(貸主)と入居者 | 対抗要件を備えていれば、賃貸人の地位は買主に移る。入居者の承諾は要らない | 民法605条の2第1項 |
| 管理委託契約 | 大家さん(委託者)と管理会社 | 自動では移らない。移すには管理会社の承諾が要る | 民法539条の2 |
賃貸借の側は、民法605条の2第1項により、入居者が借地借家法31条などで対抗要件を備えていれば、物件の譲渡に伴って賃貸人の地位が買主に移ります。手順と敷金の扱いはオーナーチェンジで売るときの注意点|入居者の承諾より先に必要なのは登記に書きました。
一方、管理委託契約には、こうした法律上の自動移転の規定がありません。民法539条の2は「契約の当事者の一方が第三者との間で契約上の地位を譲渡する旨の合意をした場合において、その契約の相手方がその譲渡を承諾したときは、契約上の地位は、その第三者に移転する」と定めています。大家さんと買主が合意し、管理会社が承諾して、初めて契約がそのまま移ります。

国土交通省は、引き継ぐ場合と引き継がない場合を分けて書いています
国土交通省の「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律の解釈・運用の考え方」(令和5年3月31日施行版)は、第13条関係の「賃貸人の変更に際しての管理受託契約重要事項説明の対応について」で、次のように整理しています。
- 管理委託契約が結ばれている賃貸住宅が契約期間中に売却され、従前と同一の内容で管理委託契約が承継される場合、管理会社は、賃貸人の地位が移ることを認識したあと遅滞なく、新しい大家さんに契約の内容が分かる書類を交付することが望ましい
- 管理委託契約に委託者の地位の承継に関する特約がなく、契約が承継されない場合、新しい大家さんとの契約は新たな契約と考えられるため、管理会社は重要事項説明と契約締結時書面の交付を行わなければならない
つまり、いまの管理委託契約書に「委託者の地位の承継」についての条項があるかどうかで、買主側の手続きの重さが変わります。売る前に契約書を開いて確かめておく価値があるのはこのためです。
売却を管理会社に頼んでもよいのですか?
管理会社に売却を伝えることと、売却の仲介を管理会社に頼むことは別です。仲介は宅地建物取引業にあたり、宅地建物取引業法3条の免許を受けていない者は営むことができません(同法12条1項)。
賃貸住宅管理業の登録(賃貸住宅管理業法3条)は、管理の仕事のための登録で、売買の仲介の免許とは別物です。多くの管理会社は宅建業の免許も持っていますが、登録だけの会社もあります。仲介まで頼むかどうかを考えるなら、まず免許の有無を国土交通省の検索システムなどで確かめてください。免許の種類と扱える地域の関係は管理会社にエリア外の物件を頼めるのか|知事免許でも県外の物件は扱えますに書いています。
管理会社に仲介を頼まず、別の不動産会社に売却を任せることも、もちろんできます。その場合でも、買主が管理を引き継ぎたいかどうかで管理会社の承諾が要る場面が出てくるので、伝えておくこと自体の意味は変わりません。なお、売買の仲介には定期的な報告の決まりがありますが、賃貸の募集にはありません。その違いは空室の報告を管理会社に求める頻度|賃貸の募集に法律上の報告義務はありませんで整理しました。
売る前に、管理会社から受け取っておくもの
買主が必ず求める資料のうち、管理会社の手元にあるものは次のとおりです。
- 入居者ごとの賃貸借契約書の写し(契約期間、賃料、特約)
- 敷金・保証金の預かり状況(大家さんが預かっているのか、管理会社が預かっているのか)
- 家賃の入金状況と滞納の有無
- 直近の修繕の記録と、入居者からの要望・苦情の記録
- 管理委託契約書そのもの(承継の条項、解約の条項、解約時の清算)
買う側がどんな書類を集めるかは収益物件を買った大家が最初に集める7つの書類|固定資産税の精算金は税金ではないが参考になります。管理委託契約を売却にあわせて終わらせる場合の考え方は管理委託契約は3か月前の予告を待たずに解除できるのか|管理の委託は民法上の「委任」ですに書きました。
都合の悪いことも書いておきます
- 管理会社に伝えると、売却の検討が早い段階で相手に知られます。管理の対応が変わることを心配するなら、伝える時期は査定を取った後、売り出す前がひとつの目安です
- 管理会社に仲介を頼む義務はありません。相談したからといって、仲介を任せる約束をしたことにはなりません
- 買主が管理会社を変えたいと言うこともあります。その場合、いまの管理委託契約の解約と清算は、売主である大家さんの側の手続きとして残ります
- 契約書の条項の読み方に迷うときは、宅建士や弁護士に確認してください
今日できること
管理委託契約書を開き、「承継」「地位」「譲渡」「解約」という言葉が出てくる条項に付箋を貼ってください。承継の条項があるかどうか、解約は何か月前の予告か、この2つが分かれば、管理会社に伝える日と、買主に説明する内容が決まります。契約書の頭書の読み方は管理会社が大家に無断で直せる金額はいくらか|頭書を空欄にすると民法に戻りますも参考になります。
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