アパートの消防計画は何戸からではありません|線は「居住者の数が50人」です

結論からお伝えすると、アパートで防火管理者と消防計画が必要になる線は戸数ではありません。「収容人員50人以上」です(消防法施行令1条の2第3項1号ハ)。そして共同住宅の収容人員は、総務省令で「居住者の数」と決められています(同施行規則1条の3の表)。

この違いが実務でどう出るか、先に書きます。単身者向けの30戸のアパートは、満室でも30人なので対象外です。一方、ファミリー向けの16戸で1戸に3人ずつ入れば48人、4人の世帯が数戸あれば50人を超えます。戸数で数えている限り、この逆転は見えません。

アパートの消防計画が必要になる線を6点で示した図。数えるのは居住者の数、共同住宅は50人から、店舗が入ると30人に下がる、大家が出すのは選任の届出、消防計画を出すのは防火管理者、重いのは使用の制限。

条文は、どこまで政令に投げているのか

入口は消防法8条1項です。長い条文ですが、大家さんに関わる部分だけ抜き出します。

学校、病院、工場…その他多数の者が出入し、勤務し、又は居住する防火対象物で政令で定めるものの管理について権原を有する者は、政令で定める資格を有する者のうちから防火管理者を定め、政令で定めるところにより、当該防火対象物について消防計画の作成、当該消防計画に基づく消火、通報及び避難の訓練の実施…その他防火管理上必要な業務を行わせなければならない。

読みどころが3つあります。

  • 対象は「政令で定めるもの」。法律の条文だけでは、自分の物件が入るか分かりません
  • 義務を負うのは「管理について権原を有する者」。所有者である大家さんが原則ここに当たります
  • 大家さんの義務は「消防計画を作る」ではなく「防火管理者を定め、業務を行わせる」こと

その政令は、何と書いているのですか

消防法施行令1条の2第3項1号が、収容人員によって3段に分けています。

  • 10人以上:別表第一(6)項ロ(自力避難が困難な者が入所する福祉施設等)など
  • 30人以上:別表第一(1)項から(4)項まで、(5)項イ(旅館・ホテル)、(6)項イ・ハ・ニ など
  • 50人以上:別表第一(5)項ロ、(7)項、(8)項、(9)項ロ、(10)項から(15)項まで、(16)項ロ、(17)項

別表第一の(5)項を開くと、イが「旅館、ホテル、宿泊所その他これらに類するもの」、ロが「寄宿舎、下宿又は共同住宅」です。アパートは(5)項ロなので、50人以上の段に入ります。

そして同条4項が「収容人員の算定方法は、総務省令で定める」と投げています。その総務省令が施行規則1条の3で、防火対象物の区分ごとに算定方法を表にしています。(5)項の欄は、イとロで内容が大きく違います。

  • (5)項イ(旅館・ホテル):従業者の数+宿泊室ごとの数(洋室はベッドの数、和室は床面積を6平方メートル、簡易宿所等は3平方メートルで除した数)+集会・飲食・休憩部分の数を合算
  • (5)項ロ(共同住宅):「居住者の数により算定する。」

1行です。床面積でも戸数でも定員でもなく、実際に住んでいる人の数で数えます。

だから「何戸から」という質問には答えが出ません

ここが記事のいちばん伝えたいところです。同じ戸数でも、入居者の構成で対象になるかどうかが変わります。実際に数えてみます。

  1. 1Kが30戸、全室単身:30人。対象外です
  2. 2DKが20戸、平均2.5人:50人。対象に入ります
  3. 3LDKが14戸、平均3.5人:49人。対象外ですが、1世帯増えれば超えます
  4. 1Kが30戸のうち10戸が2人入居:40人。対象外です

2と3の差は、戸数では説明できません。そして収容人員は入居者の入れ替わりで動きます。「一度確認したから大丈夫」ではなく、ファミリー向けで戸数が15を超えるあたりから、入居者名簿で人数を数えておく物件です。

1階に店舗が入っていると、どうなりますか

変わる可能性があります。共同住宅に特定用途(飲食店・店舗など)が混在すると、建物全体が別表第一(16)項の複合用途防火対象物として扱われることがあります。施行令1条の2第3項1号ロは、(16)項イを含む建物を30人以上の段に置いています。つまり線が50人から30人に下がります。

同号ハには(16)項ロが並んでいて、こちらは50人以上です。イとロのどちらに当たるかで、線が30人か50人かに分かれます。1階のテナントが何の用途か、その部分が別表第一のどの項に入るかで決まる話なので、この判定は所轄の消防署に確認してください。店舗を入れる計画があるなら、入居前に聞くべき一点です。

消防計画を届け出るのは、大家ではありません

これも取り違えられやすいところです。大家さんが届け出るものと、防火管理者が届け出るものは別です。

大家さん(管理権原者)が出すのは、防火管理者の選任・解任の届出です。消防法8条2項が「前項の権原を有する者は、同項の規定により防火管理者を定めたときは、遅滞なくその旨を所轄消防長又は消防署長に届け出なければならない。これを解任したときも、同様とする」と定めています。

消防計画のほうは、防火管理者が出します。施行令3条の2第1項が「防火管理者は、総務省令で定めるところにより、当該防火対象物についての防火管理に係る消防計画を作成し、所轄消防長又は消防署長に届け出なければならない」と定めています。

同条3項には、防火管理者の側の定めとして「防火管理上必要な業務を行うときは、必要に応じて当該防火対象物の管理について権原を有する者の指示を求め、誠実にその職務を遂行しなければならない」と書かれています。指示を出す側が大家さんです。管理会社に防火管理者を置いてもらう形でも、この関係は変わりません。

罰則は、命令に従わなかったときに動きます

金額の順に並べます。

  • 8条2項の届出を怠った:30万円以下の罰金又は拘留(消防法44条8号)
  • 8条3項の命令に違反した:6月以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金(同42条1項1号)。8条3項は、防火管理者が定められていないと認めるときに、消防長等が「定めるべきこと」を命ずる規定です
  • 8条4項の命令に違反した:1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金(同41条1項2号)。8条4項は、業務が法令や消防計画に従って行われていないときの措置命令です

8条1項そのものに対する直接の罰則は置かれていません。順序としては、①定めていないことを消防署が認める → ②8条3項の命令 → ③従わなければ42条、という流れです。

ただし、そこで止まりません。消防法5条の2第1項1号は、8条3項もしくは4項の命令が履行されない場合などに、防火対象物の使用の禁止、停止又は制限を命ずることができると定めています。罰金より重いのはこちらです。入居者が住んでいる建物で使用制限が出れば、家賃の話では済みません。

都合の悪いことも書いておきます

防火管理者の資格は、講習を受ければ大家さん本人でも取れます。ただし、消防計画に基づく消火・通報・避難の訓練の実施が8条1項に業務として書かれており、対象になった以上、書類を出して終わりにはなりません。遠方に住んでいる大家さんが自分で務めるのは、現実には難しい業務です。

甲種と乙種のどちらの資格が必要か、講習の日程と受講料は、都道府県や消防本部によって運用が異なります。ここは条文では決まらないので、所轄の消防署か各地の防火協会に確認してください。

そして、収容人員が50人未満で対象外だとしても、消火器や住宅用火災警報器の設置は別の条文で決まります。「防火管理者が要らない=消防法の義務がない」ではありません。ここを混ぜると点検の抜けにつながります。

単身向け30戸と家族向け20戸で、収容人員が30人と50人に分かれることを左右に並べた比較図。単身30戸は満室でも50人に届かず防火管理者は不要、家族向け20戸は1戸2.5人で50人に届き防火管理者と消防計画が必要になる。

今日できること

  1. 入居者名簿を開いて、実際に住んでいる人数を足す(世帯人数です。契約者の数ではありません)
  2. 合計が40人を超えていたら、所轄の消防署に「収容人員の数え方」を電話で確認する。50人まで余裕がないなら、先に聞いておくほうが早いです
  3. 1階や一部に店舗・事務所が入っている物件は、別表第一のどの項に当たるかを消防署に確認する。線が30人に下がる可能性があります
  4. すでに防火管理者を置いているなら、選任の届出が出ているか、届出書の控えを探す。管理会社に任せている場合も控えは受け取っておきます

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出典

  • 消防法8条1項から4項、5条の2第1項1号、41条1項2号、42条1項1号、44条8号(e-Gov法令検索・2026年9月23日時点。現行版は2025年6月1日施行)
  • 消防法施行令1条の2第3項・第4項、3条の2、別表第一(同・現行版は2025年10月1日施行)
  • 消防法施行規則1条の3(同・現行版は2026年6月26日施行)

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