台風でアパートが壊れても、大家に出る公的なお金はありません|制度は住んでいる人に付いています

結論からお伝えすると、台風や大雨でアパートが壊れても、国の制度から大家に出るお金はありません。被災者生活再建支援金は「その居住する住宅」が壊れた世帯に、災害救助法の住宅の応急修理は「現に救助を必要とする者」に向けた制度で、どちらも住んでいる人に付きます。大家が知っておくべきなのは、もらう側の話ではなく、自分が直さないときに何が起きるかです。

屋根の一部がめくれて、雨が入った

強い風が抜けた翌朝、入居者から写真が届きます。天井に染みが出ている、ベランダの波板が飛んだ、共用階段の照明が消えている。市役所には相談の列ができていて、電話はつながりません。近所の大家さんから「罹災証明を取ったら支援金が出るらしい」と聞く。

ここで最初にずれるのが、「被災者」に大家が入っているかどうかです。条文を開くと、入っていません。

台風のあとに公的なお金が誰に付くかの6点。支援金は世帯に出る、所有者は対象外、移る人には加算、応急修理は住む人の制度、直さないと公費が入る場合がある、先に見るのは保険。

被災者生活再建支援金は、世帯に付いている

被災世帯 政令で定める自然災害により被害を受けた世帯であって次に掲げるものをいう。
イ 当該自然災害によりその居住する住宅が全壊した世帯(被災者生活再建支援法2条2号イ)

ロ以下も同じ書き出しで、すべて「その居住する住宅」です。そして支給されるのは、「被災世帯となった世帯の世帯主」に対して(3条1項)。

つまり、貸しているアパートが全壊しても、そこに住んでいない大家さんは被災世帯になりません。1棟すべてが全壊しても、所有者に支援金は出ないという建て付けです。

逆に、出ていく入居者には加算が付きます

3条2項は、基礎の支給額に加えて住宅の再建方法ごとの加算を定めています。

  • 住宅を建設し、又は購入する世帯 200万円
  • 住宅を補修する世帯 100万円
  • 住宅(公営住宅を除く)を賃借する世帯 50万円

半壊で相当規模の補修が必要な世帯(同法2条2号ホ)の場合は5項で、建設・購入100万円、補修50万円、賃借25万円と半分の水準です。単数世帯はさらに読み替えがあります(3条7項)。

読み方はこうです。被災した入居者が別の賃貸へ移るときの費用には、国の制度が付いている。移らずに戻ってもらうための費用には、大家さん側の負担しかありません。退去の決断を早める力が制度の側に働いているということは、頭に入れておいたほうがよいところです。

住宅の応急修理は、原則として所有者が直すものとされている

災害救助法4条1項は救助の種類を並べていて、その7号が「被災した住宅の応急修理」です。救助の対象は2条1項で「当該災害により被害を受け、現に救助を必要とする者」と定められ、程度や方法は政令と内閣府告示に委ねられています(4条4項)。

内閣府の「災害救助事務取扱要領」(令和8年6月)には、金額と期間がこう置かれています。

  • 大規模半壊・中規模半壊・半壊 1世帯当たり757,000円以内
  • 準半壊 1世帯当たり367,000円以内
  • 災害発生の日から3か月以内に完了(国の災害対策本部が設置された災害では6か月以内)

そして同じ資料の留意事項に、賃貸住宅の扱いが1文で書かれています。

借家等は、通常はその所有者が修理を行うものであり対象とならないが、事情により所有者が修理を行わず、居住者の資力をもって修理しがたい場合は、対象となり得る。一方で会社の寮や社宅、公営住宅等はその所有者が修理を実施すべきであり対象とはならない。(内閣府「災害救助事務取扱要領」令和8年6月)

ここが、この記事でいちばんお伝えしたいところです。原則は「大家が直すもの」。ただし大家が直さないときは、公費で直る道が制度の中に用意されています。

共用部分についても同じ考え方が書かれています

内閣府が市町村職員と被災者向けに公表している「災害救助法に基づく住宅の応急修理に関する質問と回答集」(令和元年11月21日現在)には、複数階建て共同住宅の共用部分について、賃貸住宅の場合は一般的にはその借家の所有者・管理者が修理を行うこととなるとしたうえで、所有者・管理者に応急修理を行う資力がない場合には、入居世帯数分の費用を合算して共用部分の修理を行うことが可能と書かれています。この場合は、所有者・管理者に資力がないことを証する資料が必要とも書かれています。

公費で直してもらう道があるように読めますが、入口に「資力がないことの証明」が置かれています。賃貸経営を続けるつもりの大家さんが通る道ではありません。

応急修理を使うと、入居者は仮住まいに入れなくなることがあります

制度の組み合わせにも注意が要ります。応急修理は「応急仮設住宅に入居することなく、何とか自宅で日常生活を継続できるようにするための制度」で、応急仮設住宅との併給はできないのが原則です(前掲質問と回答集)。

令和2年7月豪雨以降は例外があり、応急修理の期間が1か月を超えると見込まれ、住宅が半壊(住宅としての利用ができない場合)以上で他の住まいの確保が困難な人については、応急修理期間中に応急仮設住宅を使えるようになりました(使用期間は原則6か月)。ただし内閣府への事前の連絡が前提とされています。

大家さんの側から見ると、直すのが遅れるほど、入居者の選択肢が制度の上でも狭くなるということです。

応急修理の対象から外れているもの

前掲の質問と回答集は、対象外をはっきり書いています。

  • 駐車場や倉庫は対象外(住宅の修理が対象)
  • 家電製品は対象外。エアコンの室外機も対象外
  • 入居者や大家が自分で直す場合の材料費は対象外(自らの資力で実施することになるため)
  • 屋外設置型給湯器は、浸水等で破損した配管・貯湯タンク・室外機が対象
  • 床上浸水で汚泥や悪臭により使用できない床や壁は、破損がなくても対象となり得る

賃貸経営で言い換えると、駐輪場の屋根、物置、エアコン、給湯器の一部は、大家さんの負担で戻すことになりやすいということです。

台風のあとに出るものと出ないもの。入居者側は賃借50万円、応急修理、仮設住宅、被害の認定。大家側は建物が全壊しても支援金なし、共用部は所有者負担、駐車場と倉庫は対象外、家電と室外機も対象外。

では、大家は何を先にやるのか

制度からお金が来ないなら、動かせるのは保険と記録の2つです。

  1. 被害の写真を、日付の分かる形で残す。全景と、壊れた部分の寄り。入居者から届いた写真も日付ごと保存する
  2. 保険証券を開いて、風災の補償が付いているか、免責金額がいくらかを見る大家が火災保険の証券で確認する5つの欄|地震・水濡れ・賠償・家賃収入
  3. 入居者に、いま住めるかどうかだけを先に聞く。修理の日程はそのあとで決まる
  4. 市町村の窓口で罹災証明書の申請方法と受付期間を確認する。制度を使うのは入居者側でも、建物の被害認定は共通の土台になる

保険の可否や金額は個別の契約内容で変わりますので、代理店または保険会社へご確認ください。

台風が来る前の点検は台風が来る前に大家が見ておく5か所|風速15mで屋根瓦ははがれ始めるに、水がどこから来るかの図面の読み方はさいたま市の重説で示す水の図面は、2026年4月23日から1枚増えましたにまとめています。避難の合図をどう受け取るかはさいたま市でも、川によって届く知らせが違います半地下の駐車場は、水が来てから閉めても間に合いませんをご覧ください。

都合の悪いことも書いておきます

ここに書いた金額は国の一般基準で、災害ごとに特別基準が設定されることがあります。適用される市町村も、災害救助法が適用された区域に限られます。自分の物件のある市町村が対象かどうかは、都道府県または市町村の公表で確かめてください。

また、応急修理は日常生活に必要最小限度の部分が対象で、屋根等の基本部分、開口部、上下水道の配管・配線、衛生設備などです。古くなった壁紙や畳の交換は対象外とされています。入居者が制度を使っても、部屋が元どおりになるわけではありません。原状に戻す工事は、結局のところ大家さんの側の判断と費用で進みます。

制度の適用や手続きは自治体ごとに運用が異なることがあります。個別の可否は、市町村の住宅相談窓口へご確認ください。

今日できること

火災保険の証券を1通開いて、「風災」の欄と免責金額を確かめてください。そのうえで、入居者名簿の緊急連絡先が今の番号かを見ます。制度の側は住んでいる人に付いているので、大家さんが備えるのは保険と連絡先の2つだけです。

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