アパートが断水したとき、大家にできないこと4つとできること4つ|水道法15条2項のただし書きから読む

平日の夕方、管理会社から転送されてきた電話に出ると、203号室の入居者さんが言います。「さっきから水が出ないんですけど」。ベランダから外を見ると、道路の向こうで工事の車が止まっている。ここで大家さんがまずやりたくなるのは、水道局に電話して「うちを先に直してください」と言うことです。

結論からお伝えすると、それはできません。そのかわり、条文を知っていれば最初の10分で切り分けるべきことが4つあります。そして予告のない断水は、法律のほうがはじめから想定しています。

断水の連絡を受けたときに分ける4項目の図。市の断水か、建物の中か、料金の滞納か、入居者へどう伝えるか

まず、水道事業者の義務がどこまでか

水道法15条2項の本文はこうです。

水道事業者は、当該水道により給水を受ける者に対し、常時水を供給しなければならない。

強い義務に見えます。ところが同じ2項のただし書きが、こう続きます。

ただし、第四十条第一項の規定による水の供給命令を受けた場合又は災害その他正当な理由があつてやむを得ない場合には、給水区域の全部又は一部につきその間給水を停止することができる。

「災害その他正当な理由」には、地震や台風だけでなく、配水管の事故や緊急の工事も入ります。止まること自体は、条文が正面から認めている事態です。

予告がない断水も、条文が想定しています

同じ2項の最後の一文が効きます。

この場合には、やむを得ない事情がある場合を除き、給水を停止しようとする区域及び期間をあらかじめ関係者に周知させる措置をとらなければならない。

周知の義務はあるのですが、「やむを得ない事情がある場合を除き」という逃げ道が先についています。突発の漏水事故で急に止めるときは、予告なしで止められます。

ここを知らないと、大家さんは「連絡もなかった」と事業者に抗議する側に回ってしまいます。抗議しても復旧は早まりません。予告は期待しない前提で、自分の掲示の型を先に作っておくほうが現実的です。

質問:本管は直ったのに、うちのアパートだけ水が出ません

敷地の中で止まっている可能性があります。ここで効くのが水道法14条です。同条1項は、水道事業者は「料金、給水装置工事の費用の負担区分その他の供給条件について、供給規程を定めなければならない」としています。

そして2項5号が、貯水槽水道が設置される場合について、こう求めています。「貯水槽水道に関し、水道事業者及び当該貯水槽水道の設置者の責任に関する事項が、適正かつ明確に定められていること」。

責任の分かれ目は、供給規程に書いてあるということです。受水槽のあるアパートなら、受水槽から先は設置者、つまり大家さんの側です。本管が復旧しても、受水槽が空のままだったり、断水中に運転していたポンプが空転して止まっていたりすると、部屋には水が来ません。敷地の中の水道管が大家さんの財産であることはアパートに鉛の給水管が残っていないかに書いたとおりです。

受水槽まわりで毎年かかる義務は受水槽のあるアパートには毎年2つの義務があるに、受水槽をやめたときに何が変わるかは受水槽をやめると、断水のとき水が1滴も出なくなりますにまとめました。

料金を払っていないときの停止は、別の条文です

これを混ぜると話が止まります。水道法15条3項は、水道事業者は「給水を受ける者が料金を支払わないとき、正当な理由なしに給水装置の検査を拒んだとき、その他正当な理由があるときは、前項本文の規定にかかわらず、その理由が継続する間、供給規程の定めるところにより、その者に対する給水を停止することができる」と定めています。

災害の断水は2項、滞納による停止は3項。1戸だけ水が出ていないなら、まず3項の話ではないかを確かめてください。1棟まるごとの契約か、各戸で契約しているかによっても、誰の滞納なのかが変わります。

家賃はどうなるのか

民法611条1項は「賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃料は、その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、減額される」と定めています。2020年4月から「請求することができる」ではなく「減額される」に変わった条文です。

ただし、条文は「賃借物の一部が」と書いています。市の配水管の事故による断水が、建物という賃借物の側の事由といえるかどうかは、一律には決まりません。この構造そのものは「エアコンの効きが悪い」と言われたら、家賃は請求を待たずに下がりますで詳しく書きました。個別の判断は弁護士にご確認ください。

断水のときに大家ができることとできないことを左右で比べた図。敷地の中は手が届き、本管の側は届かない

できること・できないことを分ける

都合の悪いほうから書きます。大家さんにできないのは、復旧の順番を早めてもらうこと、断水の期間を短くすること、事業者に予告を義務づけること、本管の工事に立ち会うことです。どれも水道事業者の領分で、条文上も大家さんに権限はありません。

できるのは4つです。

  1. 敷地の中を見る。受水槽の水位、ポンプが止まっていないか、メーターより先の止水栓が閉まっていないか。
  2. 掲示と連絡を自分で出す。事業者の予告を待たない。
  3. 受水槽の清掃と検査の記録を、すぐ出せる場所に置いておく。濁り水が出たときに、直近の記録があるかどうかで話の長さが変わります。
  4. 滞納による停止ではないかを先に切り分ける。2項と3項のどちらかで、次の一手がまったく変わります。

今日できること

契約している水道事業者の供給規程を1度だけ開いて、貯水槽水道の条を探してください。水道法14条2項5号が「適正かつ明確に定められていること」を求めているので、責任の分かれ目は必ずどこかに書いてあります。その1条をPDFで保存しておけば、次に水が出ないと言われたときに、敷地の内か外かを5分で判断できます。

工事を予定して事前に告知するときの締切は工事のお知らせは何日前に出すかに分けてあります。

出典

  • 水道法14条1項・2項5号、15条1項・2項・3項(e-Gov 法令検索・2026年9月20日時点)
  • 民法611条1項(同上)

供給規程の内容は水道事業者ごとに異なります。実際の責任の分かれ目は、契約している事業者の供給規程でご確認ください。

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