開業届の期限は2026年から変わりました|大家が出す4枚の届出書と、返事が来ない1枚

相続で引き継いだ木造アパートの鍵を受け取った翌週、税務署の窓口で「開業届はお済みですか」と聞かれた、という話を何度か聞きます。手元にあるのは登記事項証明書と、前の所有者が使っていた管理会社の送金明細だけ。届出書の名前も枚数も、そこで初めて知ることになります。

結論からお伝えすると、2026年から開業届の期限が変わりました。「開業から1か月以内」ではなく、その年分の所得税の確定申告期限までになっています。一方で、青色申告の承認申請の期限は動いていません。結果として、あとから作られた期限のほうが先に来るという、順番の入れ替わりが起きています。

開業した年に出す4枚の届出書を、提出期限の早い順に並べた図

2026年1月1日から、開業届の期限は「確定申告期限まで」になりました

開業届(個人事業の開業・廃業等届出書)の根拠は、所得税法229条です。条文はこう変わりました。

  • 2025年12月31日まで:「その事実があつた日から一月以内に、税務署長に提出しなければならない」
  • 2026年1月1日から:「その事実があつた日の属する年分の所得税に係る確定申告期限までに、税務署長に提出しなければならない」

改正したのは令和7年法律第13号で、公布が2025年3月31日、施行が2026年1月1日です(出典:e-Gov法令検索・所得税法229条/2026年9月21日時点)。事務所を移した場合、廃止した場合も同じ条文なので、期限は同じように動いています。

いま検索して出てくる解説の多くは「1か月以内」と書いています。間違っていたのではなく、2025年まではそれが正しかったというだけです。2026年に貸し始めた方は、条文のほうを見てください。

ただし「遅れても罰則がない」のは前から変わっていません

都合の悪いことも書いておきます。開業届は、もともと出さなくても罰則の定めがありません。だから「1か月以内」の時代も、半年遅れで出している方はいました。今回の改正は、実態に条文を合わせたという面があります。

とはいえ、開業届は屋号での口座開設や、次に述べる青色申告の話とセットで扱われることが多い書類です。出す前提で段取りを組んでおくほうが、あとが楽になります。

青色申告の承認申請だけは、期限が動いていません

所得税法144条は、いまもこう書いています。

その年三月十五日まで(その年一月十六日以後新たに同条に規定する業務を開始した場合には、その業務を開始した日から二月以内)に(中略)申請書を納税地の所轄税務署長に提出しなければならない

つまり、2026年の途中で貸し始めた場合、青色で申告したければ「開始の日から2か月以内」です。開業届の「翌年3月16日ごろ」より、ずっと早く締まります。

具体的に並べるとこうなります。2026年6月1日に賃貸を始めた場合です。

  • 青色申告承認申請書 → 2026年7月31日まで(144条)
  • 開業届 → 2026年分の確定申告期限まで(229条)

7か月以上の差が付きます。「開業届と一緒に出せばいい」と考えていると、青色のほうだけ間に合いません。青色にすると何が変わるかは 青色申告にすると何が変わるか に整理しています。

1月1日から1月15日までに始めた場合はどうなりますか?

144条のかっこ書きは「その年一月十六日以後新たに業務を開始した場合」です。1月1日から1月15日までに始めた方は、かっこ書きに入りません。原則どおりその年の3月15日までになります。1月10日に始めた人のほうが、6月に始めた人より締切が短い、という逆転が条文の上では起きます。

青色申告の承認申請と開業届の提出期限を左右で比べた図

返事が来ないのは、正常です

青色申告の承認申請を出したあと、税務署から通知が来ないことを心配される方がいます。所得税法147条は、こう書いています。

(前略)承認を受けようとする年の十二月三十一日(その年十一月一日以後新たに同条に規定する業務を開始した場合には、その年の翌年二月十五日)までにその申請につき承認又は却下の処分がなかつたときは、その日においてその承認があつたものとみなす

返事が来ないまま12月31日を過ぎたら、その日に承認されたものとして扱われます。これを「みなし承認」と呼びます。11月1日以後に始めた場合だけ、期日が翌年2月15日にずれます。

つまり、通知が届かないことは不備のサインではありません。逆に、却下する場合には年内に処分が来ます。心配なら控えの日付を残しておけば足ります。

家族に給与を出すなら、もう1枚あります

配偶者や子に給与を払って必要経費に入れる場合、青色事業専従者給与に関する届出書が必要です。所得税法57条2項の期限は、144条と同じ形をしています。

  • 原則 → その年3月15日まで
  • その年1月16日以後に事業を開始した場合 → 開始の日から2か月以内

青色申告の承認を受けていることが前提なので、承認申請と同時に出すのが実務では早いことになります。金額は「その労務の対価として相当であると認められるもの」に限られ、届出書に書いた方法と金額の範囲内でしか経費になりません(57条1項)。あとから増やしたければ変更の届出が要ります。

償却方法の届出は、大家の場合ほとんど出番がありません

「減価償却資産の償却方法の届出書」も開業時の書類として紹介されます。ここは正直に書いておきます。大家が持つ資産の大半は、そもそも選べません。

所得税法施行令120条の2第1項1号ロは、建物、そして2016年4月1日以後に取得した建物附属設備と構築物について、選べる方法を定額法だけとしています。給排水設備も電気設備もエレベーターも建物附属設備ですから、アパートの本体と設備は、届け出ても選択の余地がありません。

選べるのは、器具備品にあたるもの(エアコン、給湯器のうち備品扱いのもの、家具家電付きの什器など)です。そして届け出なかった場合は、施行令125条2号イにより定額法になります。届出書の期限は、施行令123条2項で「業務を開始した日の属する年分の所得税に係る確定申告期限まで」です。

したがって、定率法で早めに落としたい器具備品がある場合だけ出す、という整理で足ります。何も選ばなければ定額法になる、と覚えておけば、出し忘れが事故にはなりません。

相続で引き継いだときは、前の人の青色は引き継げません

ここが一番取りこぼしの多いところです。亡くなった方が青色申告をしていても、その承認は相続人には引き継がれません。相続人が自分の名前で、改めて144条の申請を出す必要があります。

相続の場合の申請期限は、亡くなった日や、被相続人が青色だったかどうかで扱いが分かれます。ここは断定できませんので、所轄の税務署か税理士に「自分のケースはいつまでか」を直接確認してください。電話での問い合わせにも応じてもらえます。相続で引き継いだ直後にやることの全体像は 大家になったら必要になる書類と手続きの一覧 にまとめています。

貸す前に使ったお金は、届出書とは別の扱いになります

届出書の話と混ざりやすいのが、開業前の支出です。まだ1室も貸していない時期の支出は、その年の必要経費ではなく開業費として扱われます。詳しくは 大家のセミナー代と書籍代は2つの関門を通ったものだけ経費になります に書きました。

また、青色でも白色でも記帳と保存の義務は残ります(所得税法232条)。帳簿の作り方は 大家が使う帳簿は何か、経費の線引きは 賃貸経営で経費にできるもの・できないもの、収入と所得の違いは 賃貸経営の「収入」と「所得」は同じではない をご覧ください。

出す順番だけ、もう一度

  1. 青色申告承認申請書(144条)。1月16日以後に始めたなら開始から2か月以内。ここがいちばん早く締まります
  2. 青色事業専従者給与に関する届出書(57条2項)。家族に給与を出すなら、1と同時に
  3. 開業届(229条)。2026年からは、その年分の確定申告期限まで
  4. 償却方法の届出書(施行令123条2項)。器具備品で定率法を選びたいときだけ

なお、ここに書いた期限や取り扱いは2026年9月21日時点の条文によるものです。税務の個別の判断は、所轄の税務署または税理士にご確認ください。年間の納期と期限の並びは 賃貸経営の1年は何月に何が来るか にあります。

今日できることを1つだけ選ぶなら、手元のカレンダーで「最初に家賃が発生した日」から2か月後の日付に印を付けてください。青色の締切はその日です。開業届の期限は、そのあとに来ます。

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