管理人が鍵をなくしたら5万円、と契約書に書くことはできません|労働基準法16条は違約金と賠償額の「予定」を禁じています

結論からお伝えすると、雇っている管理人との契約書に「鍵を紛失したら5万円」「無断欠勤は1日1万円」のように、金額を先に決めておく条項は置けません(労働基準法16条)。16条は、労働契約の不履行について違約金を定めることと、損害賠償額を予定する契約をすることの、どちらも禁じています。現行の条文で確かめました(2026年10月7日時点)。

契約書で16条に当たりやすい書き方。鍵の紛失や無断欠勤などに金額を先に決めている形を探す。

16条は、何を禁じていますか?

条文は1文です。「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。」

  • 違約金:約束を破ったときに払わせる金額を、先に決めておくこと
  • 損害賠償額の予定:損害が起きる前に、「この場合はいくら」と額を決めておくこと
  • 条文の主語は使用者で、本人が書面に署名しても外れる例外は、条文に書かれていません

「鍵の紛失」や「無断欠勤」が労働契約の不履行にあたる形で書かれていれば、この条文の対象になると読めます。個別の当てはめまでは、条文だけでは読み切れません。

契約書の書き方 16条との関係
鍵を紛失したら5万円を払う 額を先に決めている。16条の対象と読めます
無断欠勤は1日につき1万円を払う 同じく、額を先に決めている形です
鍵を紛失して損害が出たときは、実際にかかった費用を請求することがある 額を決めていません。16条が禁じるのは「予定」で、実際の損害の請求そのものを禁じる文言は条文にありません

実際に生じた損害は、請求できますか?

16条の文言が止めているのは、額を先に決めることです。起きた損害の請求まで禁じる言葉は、条文にありません。ただし、ここから先は条文だけでは決められません。

  • 請求が認められるか、いくらまでかは、民法の側の話です。この記事の条文からは判断できません
  • 請求する額を給料から差し引いて払う形にすると、24条1項の「全額払い」の問題が出ます。引ける場合は、法令に定めがあるときと書面の協定があるときで、管理人の給与から家賃を引く大家は、書面の労使協定が要りますに整理しました

実際に損害が出たときの請求は、弁護士か所轄の労働基準監督署に確かめてから進めてください。

破ると、どうなりますか?

119条1号は、16条に違反した者を、6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金に処すると定めています。条文には、現行法で「懲役」にかわる刑として「拘禁刑」と書かれています。121条は、使用人などが業務に関して違反したときは、事業主にも罰金刑を科すとしています。ただし、事業主が違反の防止に必要な措置をしたときは、この限りでないとも書かれています。

すでに契約書に書いてしまっていたら?

  1. 契約書や労働条件の通知書を開き、「違約金」「罰金」「弁償」「1回につき」「1日につき」の語を探します
  2. 金額を先に決めている条項が見つかったら、その条項を外した書面を、本人に新しく渡します
  3. すでに本人から取ったお金があるときは、そのままにせず、所轄の労働基準監督署に確かめます

16条に違反した条項の効力が、条文のどこに書かれているかは、この記事では確かめられていません。13条は、この法律の基準に達しない労働条件を定める労働契約をその部分について無効とすると定めていますが、16条の条項が13条にいう「基準」にあたるかは、条文だけでは読み切れません。ですので、外すか残すかの判断は、労働基準監督署か社会保険労務士に確かめてください。労働条件を書面で示すときの項目はアパートの管理人を雇う大家が書面で示すことにあります。

金額を先に決める契約と、起きてから確かめる運用の比較。

鍵をなくされたくないなら、金額ではなく運用で防ぎます

額を決めて牽制する方法が使えないので、なくさせない仕組みの側を整えます。

都合の悪いことも書いておきます

  • 家事使用人には、労働基準法が適用されません(116条2項)。賃貸経営のために雇う人があたるかは、条文だけでは判断できません。
  • 管理人を、雇用ではなく請負(業務委託)の形で頼んでいるときは、労働契約ではないので、16条の文言そのものにはあたりません。ただし9条は、労働者を「事業に使用される者で、賃金を支払われる者」と定めていて、契約書の題名ではなく実際の働き方が問われます。どちらにあたるかは、労働基準監督署に確かめてください。
  • 「労働契約の不履行」がどこまでを指すかは、条文に書かれていません。

今日やることを1つだけ選ぶなら

管理人との契約書を1枚開いて、「円」の前に「〜したら」「〜のとき」と書いてある条項がないかを探してください。見つかったら、その条項の扱いを、所轄の労働基準監督署か社会保険労務士に確かめます。人を雇うときの就業規則の決まりは雇う人が10人未満なら、就業規則を作らなくても法律違反ではありませんに、辞めてもらうときの予告は管理人に辞めてもらうときは、30日前に伝えるか30日分の平均賃金を払いますにあります。個別の判断は、専門家に確かめてください。

出典

  • 労働基準法9条・13条・16条・24条・116条・119条・121条(e-Gov法令検索・2026年10月7日時点)

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